第14話 過去喰らいの檻

瑠奈が書き上げた小説「過去喰らいの檻」は、想像を超える反響を呼んだ。彼女の言葉が人々の心を動かし、過去に囚われて苦しんでいた多くの人々がそれに共鳴した。その小説は、単なる物語以上のものとなり、心の深い場所に触れる一冊となった。


瑠奈自身もその後、少しずつ変わっていった。過去の苦しみが完全に消え去ることはなかったが、それに向き合う力が彼女には備わっていた。過去を食らい、過去に囚われることなく、彼女は新たな一歩を踏み出し続けた。


時折、彼女は思い返すことがあった。あの虚構の世界で、過去喰らいとして過去を食べ続けた日々。あれはまさに自分がどこかで求めていた「答え」への道筋だったのだろうか。瑠奈は過去を食らうことで、自分自身の本当の姿に向き合い、そしてそれを乗り越えることができたのだと、心の中で深く感じた。


それから数年後、瑠奈は次の小説に取り掛かることとなる。彼女はもう「過去喰らいの檻」を書いたことが、自分にとっての一つの大きな転機だったと振り返ることができた。過去に囚われていた自分を解放し、新しい未来に向かうための力を見つけた。そしてその力は、他者にも伝わり、同じように過去に縛られた人々を救う手助けとなった。


瑠奈の小説がもたらした影響は、ただの一冊の本以上のものだった。それは人々に対して「今」を大切にする力、過去を断ち切る勇気を与えた。彼女の物語は、過去に囚われ、過去に依存し、未来を見失っていた多くの人々に希望を与えるものとなり、瑠奈自身もその希望の一部であり続けた。


ある日、瑠奈は新たな物語を書き始める前に、ふと立ち止まった。そして、微笑んだ。過去喰らいとして生きた自分が、今、心から「自由」でいられることに感謝しながら。過去の苦しみがあったからこそ、今の自分がいると心から思えるようになった。


「過去を食らうことに終わりはない。でも、それを超える力を持つことができる。」


彼女の心の中に湧き上がったその言葉は、まるで過去喰らいを経験した者だけが感じることのできる真実のように響いた。瑠奈は過去を完全に消し去ることなどできなかったが、それを抱えたまま、今を生きる強さを手に入れた。そして、彼女が過去を食らう力を手放すことができたのは、過去がもたらした教訓と共に、今の自分を大切にすることを学んだからだった。


「過去を喰らう檻から脱け出して、今を生きる。」


その結論こそが、瑠奈の物語の本当の終わりだった。そしてそれは、過去を背負いながらも、前に進む勇気を持つ全ての人々に送るメッセージとなった。


物語が終わり、瑠奈は静かにキーボードを叩き続けた。新たな物語が、今、彼女の中で静かに芽生え始めていた。過去を超え、未来を信じて生きるその勇気を、次は言葉にして紡いでいくのだと心に誓いながら。


そして、瑠奈はもう一度、笑顔を浮かべた。その笑顔が、過去の自分を超えた証だった。


― 終わり ―

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記憶喰らいの檻 友智コウ @kou412

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