021招待
「朝から何をしているの?」
サーシャがヘルガから皆が二日酔いになっていると聞いて、ルドルフ料理長の焼きたてのパンを届けに来ると
拓が家の外で水魔法を使って何かをしている。
「洗濯だよ。今度新しい仲間が出来たから、マメに洗濯をしようかと思って。
少し待っていてくれる。」
拓の洗濯は変わっていて、魔法を使う。
空中に水球を作りだし、その中に洗濯ものと洗剤を入れて水を回転させる。
それも汚れが落ち易くするためにお湯の水球だ。
汚れが落ちると、何度か水球を作り替えて濯ぎ、風魔法で脱水してから天日干しをする。
自由自在に魔法を使う姿は、見ているだけでも面白い。
洗濯が終わったところで、サーシャがパンを渡すと
「わざわざ持ってきてくれて、ありがとう。」
「今日は2日酔いになっていないのね。」
「昨日は、こっそり抜け出して先に寝たからね。
代わりにガラがヘルガさんの生贄になって潰れているよ。」
サーシャは拓に仲間が出来たと聞いて、紹介してもらおうと思っていたので残念に思っていた。
拓はテーブルと椅子をセットし、サーシャとマリーを席に付かせると一旦家に戻った。
「魔法って便利よね。それに、楽しそうで羨ましいわ。」
拓の後ろ姿を見ながらサーシャが呟く。
「お嬢様、あれだけ使いこなすには、大変な努力が必要になるそうです。
特に拓様は複数の属性魔法を使えるのですから、人より努力を重ねて来たと思いますよ。」
サーシャもマリーの言う通りだと思うが、拓があまりにも気軽に魔法を使うので便利さばかり見えてしまう。
「お待たせ。紅茶を用意するのでどうぞ。
さて、俺は食事をさせて貰おうかな。」
拓はゲートを開くと、サーシャ達の前には紅茶と蜂蜜。
自分の前には、サラダや目玉焼き、ヨーグルトを取り出していた。
そして、パンを両手に挟むと火魔法で焼き目を付けバターと蜂蜜を塗って美味しそうに食べている。
香ばしい匂いに、サクッという音が何とも言えない。
魔法の使えないサーシャからすると、やはり魔道師が羨ましく思えてしまう。
サーシャと拓が話していると
「サーシャ、ここに居たのか。母上が探していたぞ。」
オーヘンとヘンリーがやってきた。
「拓が奴隷を買ったと聞いてな。どんな奴か見に来たんだが。」
「奴隷では有りません。俺の仲間です。」
拓が珍しく強い口調でオーヘンの言葉を訂正していた。
「仲間を奴隷呼ばわりしてすまなかった。で、その仲間はどうしている。」
ヘルガに捕まり、朝まで酒を飲まされ潰れていると話す。
「朝早くにヘルガに会ったが、元気だったぞ。
二日酔いなら、改めて来直した方が良さそうだな。」
オーヘンの話を聞いて、拓もヘルガに呆れているみたいだ。
サーシャは渡したいものが有ったが、ガラが一緒でないのならと改める事にした。
昼食も終わりサーシャが拓の所に来ると、既にヘンリーが来ていた。
「何で、こうなるのかしら。」
ヘンリーがガラに剣の稽古を始めていた。
両腕に掛かった呪いの所為か、ガラはヘンリーに直ぐに打ち負けてしまう。
「元々はパワータイプだろうが、それを変えなければ俺には勝てないぞ。どうするガラ。」
何度も打ち負けながらも、少しづつヘンリーの剣を流せる様になってきた。
拓もトウ達に剣を教えてもらっていたが、剣の才能は無いかもしれない。
夕方まで稽古は続き、サーシャは見ていただけだったが、懸命なガラの姿に少し安心できた。
「全員、凄い汗ね。」
「随分と扱かれたからね。」
そんな会話をしているサーシャに、
「お嬢様、渡す物があったのでは。」
とマリーが小声で呟く。サーシャはここまで待っていた目的を忘れる所だった。
「拓とガラさんに、招待状。」
1ヶ月後に開く、サーシャの誕生日パーティの招待状。
何時も家族だけで祝ってもらったが、今回は特別に拓やガラを招待する。
「あの、お嬢様。招待して頂くのは嬉しいですが、私は」
「拓の仲間なんでしょ。当然、招待するわ。」
サーシャははしたないと思ったが、ガラの言葉に被せて一方的に話した。
サーシャにとってもガラは拓の仲間、それだけだ。
「サーシャ、本当にありがとう。ガラと2人で必ず出席させてもらうよ。」
拓が嬉しそうにしている。すると
「何だ、サーシャは未だ渡していなかったのか。
その招待状、家に帰ってきて直ぐに書いていなかったか。
まぁ、ガラが仲間になったから丁度良かったとは思うが。」
ヘンリー兄様は普段は寡黙なのに、どうしてこんな時だけ余計な事を言うのかしら。
恥ずかしくて、サーシャの顔は赤くなっていた。
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