第14話 中間テストの勉強が大変すぎるんですけど?!
「あーもうむり!」
カリカリとペンが走る音だけが聞こえる静寂を切り裂き、セシリアはシャーペンを投げ飛ばしてカーペットの上に倒れた。
「こら、まだ三十分しかやってないでしょ」
「三十分もよ! こんなのやってられないわ!」
楓はセシリアが投げたシャーペンをキャッチし、集中力が切れたせいシリアに注意する。ただセシリアも引き下がらず、勉強は嫌だと訴えている。
「風香は何かわからなところはない?」
「んー、まだ大丈夫」
隣の紗雪が私に肩を寄せてこっちは順調か伺う。まだ基礎的な部分の練習問題なので、紗雪の助けを借りなくても問題なさそうだから大丈夫と返した。
私達四人はセシリアの家に集まって勉強会をしていた。普段なら広いセシリアの家に来たら庭園で優雅にアフタヌーンティーを嗜むのだけど、中間テスト目前の今回ばかりは真面目に勉強しなければならない。紗雪や楓は問題ないけど、私の場合は苦手教科の数学、セシリアは全教科に赤点の可能性がある。
もし赤点を取れば補習になって遊びや部活のために使える時間が減る。青春を謳歌することを目標にする高校生にとって、それは死活問題なのだ。
「こんなに勉強しなくても大丈夫よ。だって、私にはこれがあるもの!」
セシリアは紫の花柄の可愛いペンケースから、長い鉛筆を取り出して掲げた。その鉛筆は先が削られておらず長いままだが、表面は傷だらけになっていて、六つの面には1から6の数字が書かれている。またそれかと楓はため息をつくが、そんな冷たい反応を無視してセシリアはキラキラした目で語り始めた。
「これを使えば選択問題の正答率八割越え! 赤点なんて取りっこないわ!」
「いやぁ……だからって勉強して損はないでしょ」
「しなくていいの! だって私は世界的な占い師になるって決めてるもの。科学の知識も歴史の知識もいらないわ」
「何を目指すかもセシリアの自由だけど……うーん」
楓が反論に詰まる。一見めちゃくちゃを言っているセシリアだけど、長い付き合いの私たちはあの鉛筆はガチで当たるという事も、セシリアの占いがどれだけ正確かも知っている。そのせいで彼女の言い分も否定できないのだ。
「ねぇセシリア。一ついいこと教えてあげる」
「え? なによ紗雪」
「数学のテストって途中式もちゃんと書かないと0点なんだよ」
「……答えだけ合ってたら部分点とか」
「逆にカンニング疑われて成績下がるかも。セシリア、中学の頃の数学の先生はそのへん甘かったけど、高校は違うから」
「ぐぅ」
セシリアからぐうの音が出た。流石紗雪だ。実力に基づく暴論を振りかざしていたセシリアを一発で黙らせた。
「べ、べつに赤点とっても困るのは私だけだし。勉強するもしないも私の自由よ」
「本当にそう思うの?」
「え?」
まだ自分が勉強しなくていい理由を探すセシリアに紗雪は強めの言葉で問いかける。よく分かっていなさそうなセシリアに、紗雪はシャーペンを置いてから彼女の方を真っすぐ見て説明を始めた。
「セシリアは楓のマネージャーなんでしょ。それなら、セシリアが補習でいなくなったら楓が困るよ」
「え、いや、空手部には他に沢山マネージャーいるし……」
「ふーん。セシリアは他の子に楓を任せてもいいんだ」
「それは……嫌かも」
「そうでしょ。私も風香が補習で部活に来れなくなるのは嫌。部活やるからには、大切な人と同じ時間を過ごしたい。だからセシリアも空手部のマネージャーやってるんでしょ?」
「い、いや、マネージャーは楓に頼まれたから仕方なくやってるだけで……」
「仕方なくならどうして嫌なの?」
「そ、それは……」
紗雪の言葉でセシリアが徐々に追い詰められていく。赤点を取ったら楓に迷惑がかかる。しかも、自分以外の子に楓を任せなきゃいけなくなる。それはセシリアにとって、楓への恋心の自覚はないながらも、確かに嫌だと感じることだった。いつも通りの素直じゃないツンデレ仕草も、紗雪の理詰めの前では形無しだ。
というか、部活は大切な人と一緒に過ごしたいって、紗雪のその大切な人って私だよね。へへ、分かりきったことだけど、言葉にされると嬉しくなっちゃうな。
「セシリア」
「か、楓?! いきなりなにするのよ!?」
返答に窮するセシリアに楓が突然抱き着いた。セシリアは驚いてはいるけど全く抵抗しないどころか、楓の腕の中に素直にすっぽりと納まっている。言葉とは裏腹に体は素直なのが可愛らしかった。
「わたし、セシリアが居なくなったら寂しいな」
「そ、そんなの楓の勝手でしょ」
「うん。セシリアが居なくて寂しいのも、セシリアをマネージャーに誘ったのも、ぜんぶ私の勝手。でもね、あれもこれもぜんぶセシリアが大好きだからなんだよ」
「だいっ……?! そんなこと言ったって絆されないわよ!」
ぜったい絆されてるじゃん。めっちゃ顔真っ赤だし、声震えてるし。
「ねぇ、セシリアは私のこと好き?」
「す……嫌いじゃないわよ。だって、幼馴染だし、親友だし……」
「ふーん。じゃあ、親友のために頑張ってくれる? 私もできる限りの手伝いはするからさ」
「し、仕方ないわね。寂しがりなアンタのために頑張ってあげる」
「ありがとう、お姫様。テストが終わったらご褒美にうちで何か奢るよ」
「……楓の手作りにして」
「仰せのままに」
楓のストレートな言葉がセシリアのツンデレバリアを打ち破り、お姫様からデレを引き出した。いやぁ、相変わらずこの二人は尊いなぁ。嫌いじゃないって言葉に楓は少し不満そうだったけど、それがセシリアの精一杯だって理解して、彼女が頑張れるように手伝いの申し出とご褒美を用意した。さすが楓だ。セシリアの扱いを心得ている。
さて、尊い場面で栄養補給したところですし、私も勉強頑張りますか。そう思ってシャーペンを握ると、隣の紗雪が私の肩をつついた。
「どうしたの?」
「風香、わたしもご褒美欲しい」
「ご褒美って、紗雪は赤点なんかとらないでしょ」
「それは当たり前。だから、ご褒美は学年でトップ10に入ったら」
セシリアに楓からのご褒美があるのを羨ましく思ったようで、私にご褒美をねだってきた。相変わらず可愛い。でも、トップ10とは大きく出たものだ。高校に入って初めてのテストで周りのレベルが分からないし、人数もかなり多いのに。これはかなり豪華なご褒美じゃないとつり合いが取れなさそうだ。
「じゃあ、もし成績トップ10だったら、一日私を好きにしていい権利をあげる」
「……本当にそれでいいの?」
「え? トップ10って絶対大変だからそれに釣り合うようにしたんだけど……」
「まぁ、風香が良いっていうならいいよ。でもね」
紗雪はほんの数ミリで唇が触れそうなほど私に顔をグッと近付けた。整った顔が視界をジャックし、透明感のある紗雪の香りが私の脳を刺激した。
「好きにしていいなんて、簡単に言っちゃダメだよ」
「ひゃ、ひゃい……」
「うん。分かればいいよ」
紗雪はそれだけ言って自分の勉強に戻った。ほんの一瞬の出来事だけど、かなり多量のサユキニウムを摂取したせいで脳がくらくらする。可愛いは栄養だけど、摂り過ぎたら毒にもなる。勉強の休憩ついでにサユキニウムが頭から抜けるのを待つことにした。
簡単に言っちゃダメ、かぁ。
「紗雪にだけなんだけどな」
私からポロリとこぼれた言葉は、集中している紗雪には届かなかった。
クーデレ幼馴染が私のことを好きすぎてやばいんですけど?! SEN @arurun115
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