第5章──2 Bust up!!!
3
薙ぎ払う。袈裟斬る。叩く、蹴る、殴る。
向かい来るミルコーレをいくらいなそうが、全て分身でしかなかった。
「ちっ、どいつもこいつもどこからでも! 本物はどれだ!」
ディレッタがまた分身だったミルコーレを投げ飛ばして愚痴る。血の気の多い彼女だが、これだけ多くなった分身からは一撃ももらっていない。さすがの剣筋だが、さすがにうんざりした様子だ。
(……分身は無尽蔵に出てくる。こいつは魔力とやらをかなり蓄えてるみたいだ。このままじゃ、向こうが力尽きる前にこっちが物量で押される)
キアラはぶつかってくるミルコーレたちを消し去りながら、よく奴らを観察する。
数に対して、一匹一匹の動きは単調だ。得物の盾を構えてタックル。または縦にして金属製の鋭い部分で斬り掛かってくる。
あとは、ブーメランのように盾を投げはなってきたのを、キアラは大きく仰け反って避ける。その攻撃でミルコーレの他の分身も巻き添えにしている。攻撃も行動も、雑。そこは本人の性質も表しているか。
「ディレッタ先輩。ちょっとこいつら相手にしてみて」
「おい! お前な! 私にばかりバカを押し付けるな!」
分身たちの背中を蹴飛ばしてディレッタの方に任せる。文句を言いつつも彼女は軽く奴らの攻撃をかわし受け流し、打ち消していく。
(……やっぱり、うまく誤魔化してるけど動きが機械的だ。少しだけ人間にはぎこちない動作がある。ということは、ここにいる奴らは――)
ほんの一瞬、ほんの僅かだが。人間らしくない動きが分身たちに組み込まれている。おそらくそう本体からプログラミングされているのだ。それを誤魔化すのは見事だが、分身の数が増えれば増えるだけそれはわかりやすくなる。その分メモリを割かなければならないから、当たり前だ。
「増え続けるミルコーレ選手の分身たちッ! それを相手取るキアラ選手! ディレッタ選手! さあ先にスタミナが尽きてしまうのはどちらなのかッ!」
「うるさい! ちょっと集中してるから黙っててッ!」
熱の入ったアナウンスに、キアラは会場中に響き渡る声量で怒鳴り返す。しん、と活気づいていた観客たちですら静まってくれた。
キアラは素早く、その観客席を見渡す。高みの見物を決めるとか奴はほざいていた。ボロを出したのだ。
「ディレッタ先輩! 客席!」
ディレッタを囲んでいた分身を全員ふっ飛ばしながら、キアラは彼女に言う。
それで彼女は察してくれたようだ。客席に素早く視線を向け意識を集中させる。その間に襲い来るミルコーレたちは全員キアラが消し飛ばしていく。
(私は魔法を知らない。でもディレッタなら、魔力を探知できる)
この分身たちと同じ魔力を纏った奴。おそらく大勢の観客たちに紛れ込んでいる。魔法を展開しているのだ。おそらく分身で誤魔化していたが、本人はより多く魔力を放っているだろう。
「いたッ!」
ディレッタが見据えた先。フードを付けたミルコーレ本人が、観客席の最前線に立っていた。おそらく同じ格好の分身しか生み出せず、あの距離がこれだけの分身を生み出すギリギリなのだろう。
こちらが気付いたのを察したか、ミルコーレは逃げようとする。間違いない本人だ。
向かおうとするキアラたちを、分身全員が阻もうと立ちはだかる。キアラたちは次々とそれを払い除けていく。が、なかなか近づけない。だがミルコーレも大勢観客たちがいるせいで逃げ切れないでいるようだ。
「逃がすか三下ッ!」
ディレッタが叫び、分身が放り投げた盾をギリギリで避ける。途端、彼女の姿が一瞬で消えた。
ミルコーレの能力かと思ったが違う。彼女の姿はいつの間にか、ミルコーレ本体のすぐ傍まで迫っていた。
「覚悟ッ!」
目前に迫ったディレッタが剣を振り上げた瞬間。ミルコーレは近くにいた女子生徒を掴み込んで盾にした。手にはナイフが光る。
「動くな! こいつが怪我するっすよ、ディレッタ様?」
ディレッタは当然急停止して剣を振り下ろすタイミングを見失う。人質を取られては、純粋な正義を宿した彼女はそうせざる得ないだろう。
ここまでは予測済み。だからキアラは、客席を守っている結界をガラスみたいにぶち破ってミルコーレの後ろに着地した。
「悪いけど、私はヒーローじゃないから」
結界の割れた派手な音で気を取られたミルコーレの腕から、人質の女の子を掴んで競技場の方に放り投げる。そして恐怖に目を見開いているミルコーレに、キアラは木刀を構えた。
「や、やめッ……!」
「魔法ばっか頼ってないで、ちゃんと自分を鍛えなよ。人生を楽にする方法、その三」
突く、突く、突く。突く突く突く。全身くまなくキアラは木刀の切っ先でミルコーレを殴打していく。確かな肉と骨を打つ感触に、消えない体。間違いなく本体だった。なので遠慮なく、今までの憂さ晴らしもさせてもらう。こいつは屑だ。自分の手も汚す度胸もない奴が戦いの場に立つのは許せない。だから徹底的に、戦うことの痛みを教えてやる。
「おい! やりすぎだお前殺す気か!」
ディレッタの声で我に返る。夢中になりすぎた。全身鞭打ちになったミルコーレは立ったまま気絶しており、キアラが手を止めるとそのまま後ろ向きに倒れる。全身痣だらけで評価されている顔もひどい有様だが元気に息はしているし脈も速いくらいで正常だ。殺してはいない。つまり武闘会のルールは破っていない。
「ごめん、つい。でもこいつ、生きてるよディレッタ先輩」
「当然だ痴れ者が! この子もすっ飛ばして、お前どうかしているぞまったく!」
下の競技場でご立腹極まりないディレッタは、キアラが投げ飛ばした人質の女子生徒を受け止めてくれたみたいだった。彼女は人質にされたり投げられたりしたことよりも、目の前で抱き留めてくれているディレッタに夢中になっているようだ。大丈夫そう。
キアラはアナウンスをしている実況者たちの席に目をやる。言いつけ通りに静かにしていた彼女らはびくっと身を竦めていた。
「この人、もう戦えなさそうだけれど。まだ殴ってもいいの?」
「しょ、勝者! またもキアラ選手&ディレッタ選手ッ!! 止まらない快進撃! 止まらない連覇ッ! この二人は本当にアオイ様を、クローチェの椅子まで導く騎士となるのかァ⁉」
びびっていた割に同じ熱量でアナウンスを響かせる辺り、向こうはプロだった。またぎこちない拍手が会場にまばらにばらまかれていく。スピネルクラスの生徒たちのキラキラした眼差しと、それ以上のクラスの生徒たちの困惑の温度差が顕著になってきていた。
ふと、キアラはこちらに鋭く視線を送っている存在に気づく。
ちょうど対面側、広い客席の空間、王座についている存在。イルレヌード・アレキサンドラ。エリオットの父親で、この学園の理事長。
彼の目は明らかにキアラを敵として捉えていた。拍手も身じろぎもせずじっとこちらを観察している。気味の悪い眼差しだ。これは完全に、目を付けられたか。
(このまま何事もなく武闘会優勝……なんてわけにはいかなそうだな)
勝ち進むごとに自体が悪い方向に向かっていくような気がして、キアラはため息をつきながらまだ怒っているディレッタのところへと降り立った。
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