1 ボクの朝はこんなふうにスタートする
ゆっくりと意識が浮上して
ボクは濡れた瞼をそろそろと開ける。
あれは夢だ、“あの日”のワンシーンの夢。
今は朝で、
ここはアクションヒーローのポスターに
囲まれた.....いつもの自分の部屋。
木製の2段ベッドの下段で、
そう無意識にぼんやりと思う。
勉強机がある窓辺からは
パンと薪とクローブの香りが仄かにする
ふんわりとした風がカーテンを揺らすのが、
涙で濡れてぼやけた目の端で少しだけ見える。
ボクは横向きから仰向けに寝返りを打ち、
目に溜まった涙を
ゴシゴシと拭って、息を深くふかく吐く、
そうしていると耳元で喧しく鳴り響く、
目覚まし時計のアラーム音と
外から聞こえる街の朝のざわめきが
徐々に聴こえ始めて
それを聞いて、やっと
『あぁ今は現実』だと、
そうゆっくりと寝起きの頭が動き始めるのを
ぼんやりと感じながら
ボクはどこか他人事のように夢の感想を
胸の中でひっそりとつぶやいた。
『……久しぶりに“あの日”の夢を見たなぁ』
とても悲しくて、うつくしい、あの日の悪夢。
でもあの永い夢は、今日は最初ら辺だった。
いつものクライマックスではなかった。
『......あの人がボクを庇って、死んで、
その遺体を、何故か“あいつ”に連れて行かれて
それがボクはわからなくて認めたくなくて、
必死であの人を探すところ、か』
1番、悲しくて“あいつ”に怒りを覚える場面だ。
そう思ったら、腹の奥から怒りが湧き、
思わすギリっと歯軋りをして
空に広げてた両手を握りしめたら
「ジルーっ、もう起きたー?遅刻するけどーっ」
階下から、ちょっとイラついたような、
姉のルルのカミナリレベルのおおきな大声が
廊下...というか家中に響き渡る。
それを聞きながらボクは胸の中で、
『毎度、毎度、本当に
タイミングが妙に良いよなぁ」と思う。
おかげで腹に溜まった怒りが
どこかいってしまった。
そのことに安堵すると共に
ため息をそっとついて、
「今、起きたー」と返事をし
体をよいしょと回して起き上がると
鳴り響くアラームを止める。
体に掛けられた柔らかいタオルケットを
勢いよく蹴散らしてベッドから降り
その後、靴を素足で履いて扉に向かうと
ふと壁に掛けられた
古い小さな姿見が視界に映った。
そこに写った、自分の顔の内、鼻筋に残る、
『あの日』“あいつ”に付けられた、
3本線の、たぶん一生残る古い古い傷痕。
それだけをじっと静かに見つめる。
……あの夢を久しぶりに見たせいで、
いつもは湧かない、形容できもしない。
昏いイヤな感情がドロっと胸の中に湧いて、
そんな感情を振り払うようにボクは今一度、
目をぎゅっと瞑って、深く深く深呼吸する。
『大丈夫。落ち着け、一旦、あの夢は忘れろ』
____でも、“あいつ”に
_____いつかまた会えたならば、
__あの人の受けた苦しみを痛みを、全て_
______必ずこの手で味わらせてやる。
__この家の“裏家業”の“仕事”で培った技術
__血と骨と肉で
_____真っ赤に汚れた、この両手で、
『…絶対、妹の、ココの為に、
愛する家族の為に、
...............ボク自身、の願いの、為にも、
絶対にこの手で死ぬよりも酷い目に、』
あの人の受けた痛さを思い知らさせる。
心の中で
そうもう何度思ったのか
わからない事をもう一度思い。
深い深呼吸をして
姿見から目を離し、扉に手をかける。
大丈夫だ、もうボクはいつもの通り
ボクは今日も笑って過ごせる。
念じるように自分にそう言い聞かせると
自分の部屋を出て、二階の右端にある食堂まで
階段を2段飛ばしで勢いよく駆け下りた。
「おはよう、姉さん、兄さん」
そう言いながら、淡く微笑んで、挨拶をした。
さぁ、いつも通りの朝がはじまる。
灰色の少年は白紙の世界と戯れる NICO @127899
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