第31話 魔法少女(リル視点)
ミラカに私の本当の姿を見られてしまいました。気弱で、あがり症で、どもり癖があって、何か言いたくても心の奥底にしまい込んでしまう。そんな私の姿を。
やはり『魔法少女』でない私はどうしようもない小娘で、こんな姿を見られたらきっとミラカにも嫌われてしまうでしょう。
だというのに、
「――逃げてもいいのですよ?」
ミラカはこんな私を認めてくれました。認めた上で、許してくれました。
「逃げたっていいのです。恐いなら、戦わなくてもいいのです。リルはもう敵を倒したのでしょう? 因縁に決着を付けたのでしょう? なら、もう普通の少女に戻ってもいいはずです。気弱で、あがり症で、どもり癖があって、何か言いたくても心の奥底にしまい込んでしまう……。そんな、どこにでもいる(・・・・・・・)一人の少女に戻ってもいいのですよ」
普通の少女。
とても素敵な響き。
いいのでしょうか?
こんな私が、普通の少女を目指してもいいのでしょうか?
「戦いなんて、誰でも恐いです。弱い自分を恥じる必要なんてありません。あがり症でも、どもり癖があってもいいんです。それを笑う人がいるのなら、それはその人の心がねじ曲がっているだけのこと。それに、他人のことを考えずに自分の主張を押し通そうとして許されるのは子供だけですよ」
私は、私でいいのでしょうか?
こんなにも弱い私で。
こんなにもあがり症で。どもり癖があって。言いたいことも言うことができない。そんな『普通』な私でいいのでしょうか?
私が、普通の女の子に……。
「――――っ!」
聞こえました。
助けを求める誰かの声が。
泣き叫び、逃げ惑い、怒声を上げる誰かの声が。
名前も知らない。顔も知らない誰かの声が……。
「……リル!」
ミラカの叫びを背中に受けながら。
私は喫茶店を飛び出して声のする方に駆け出しました。
◇
町中に作られた広場。
その中心地。噴水の近くには何とも形容しがたい『怪人』がいました。
基本的には人型です。軍帽を被り、チョビ髭を生やしています。
しかし、特異なのはその肉体です。なんと言いますか……そう、ヒトデ。ヒトデの足のようなパーツが身体のあちこちから生えているのです。
その奇妙な怪人は手下であろう黒づくめの戦闘員を操り、近くの人々を攫おうとしています。
と、ミラカとアヤネさんが私に追いついてきました。……私の身体能力は(まだ魔法少女に変身していないとはいえ)かなり高いと思うのですが、すぐに追いつけたお二人は素直に凄いと思います。
人々を誘拐せんとする怪人を目の当たりにしてミラカが目を見開きました。
「あ、あれは! まさしくヒトデ・ヒットラ――」
『危険な名前を叫ぶのは止めるのにゃ! 色々な意味で危険だにゃ! 危険が危ないにゃ!』
なにやら騒ぐお二人です。この二人はときどき私の分からない会話をしますよね。ちょっと嫉妬です。
『……? なにやら寒気がしたのだにゃ……?』
「腹を出して寝ているからじゃないですか? というかよく考えたら全裸ですよね、全裸」
『私の尊厳を破壊するのは止めるのにゃ! 猫は毛皮という名の服を纏っているのだにゃ!』
ミラカとアヤネさんのやり取りの間にも事態が進行します。私たちの存在に気づいた怪人が手下をこちらに向かわせたのです。ミラカは世界一の美少女ですし、アヤネもミラカほどではないとはいえ美少女。怪人が狙うのも納得できるというものです。
『……なにやら褒められたはずなのに貶されたような気がするにゃあ』
私はミラカとアヤネさんを庇うために一歩前に出ました。
残念ですが、私は普通の少女にはなれないみたいです。
戦いの予感から手は震え、胸の鼓動は乱れ。……それでも、誰かを守るために動いてしまうのですから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます