第25話 町に出る
王女なのですから町に出るときは変装くらいします。具体的には染髪の魔法で銀髪から茶髪に大変身です。あとメガネ。ここ重要。愛と勇気とメガネは世界を救います。
今までも何度かお忍びで街に繰り出したことがありますけど、髪色が違うだけで意外と王女だってバレないんですよね。
『……いやバレバレだにゃ。みんな見て見ぬふりをしているだけだと思うのにゃ。裸の王様・王女バージョンなのにゃ』
アヤネのツッコミが胸に突き刺さりました。ちなみに『こっちの方が楽』らしいのでまた黒猫形態に戻っています。こちらとしても猫姿の方がツッコミ (物理)しやすいので助かりますね。
『動物虐待反対だにゃ』
「愛情溢れるスキンシップです」
『吸血鬼のパワーでやるスキンシップなんて普通の猫なら即死なのだにゃ。羆がメダカを狩るようなものなのだにゃ』
「死んでないので問題ありません」
バッサリと切り捨てた私はリルに顔を向けました。
「あ、そうだ。リルに魔法を掛けたいんですけど、いいですか?」
「魔法、ですか?」
「えぇ。町に出るのにこちらの世界の言葉が通じないのは不便ですし。――てい」
私が(ついついリルの返答を待たずに)無詠唱で言語翻訳の魔法を発動させると、リルの身体が光り輝きました。成功したみたいですね。
……あれ? 何か忘れている気がしますけど、何でしたっけ?
『うわぁ、スキルレベル8の『抗魔法』をぶち抜いたのにゃ……。しかも無詠唱で……。いくら始祖様の身体だからと言って出来ることと出来ないことがあるはずにゃのに……』
あ、そうでした。リルって抗魔法の力を持っていて、だから魔導師団長も言語翻訳の魔法を掛けられなかったんでしたよね。そのあと色々ありすぎてすっかり忘れていました。
『平然とやったけどおかしいにゃよ? 抗魔法のレベル8ともなれば上級攻撃魔法すら無効化するはず。にゃのに無詠唱でスキルをぶち抜くとかどうなっているのにゃ?』
それはあれですね。リルに不便な思いをさせたくないという私の優しさが奇跡を起こしたんですよ、きっと。
『そんな奇跡も魔法もないんにゃよ……』
呆れるアヤネはスルーして。私はリルの手を取り、引き寄せて、流れるような動きで『お姫様だっこ』しました。リルは身長高めで少し体重がアレですけど、吸血鬼パワーを前にすれば何の問題もありません。
「み、ミラカ!? いきなりどうしたんですか!?」
顔を真っ赤にするリルです。
「いえ、私って馬車が嫌いなんですよね。遅いし揺れるしケツが痛くなるし」
「……女の子がケツとか言わないでください。ではなくて、なんでそれとお姫様だっこが繋がるんですか?」
口では拒否しているようなリルですが、犬耳はピコピコ動いていますし尻尾はブンブン振られています。
リルも喜んでいるようなのでこのまま続行。窓枠に足をかけ、吸血鬼パワー全開で跳躍しました。
地面がさらに遠くなり、浮遊感が全身を支配します。
もちろん誰かに見られたら騒ぎになりますので視認遮断と気配遮断、ついでに風防の魔法をかけておきます。
『魔法を三重に掛けるとかとんでもないチートなのだにゃ』
私の肩にしがみつくアヤネのツッコミを聞き流しているうちに城壁まで移動、いったん着地します。
リルの様子を確認するとアワアワと周りを見渡していました。私の服をギュッと握りしめているのが超可愛い。
「み、ミラカ!? 飛ぶなら飛ぶって言ってください!」
「あぁはいすみませんでした。じゃあ飛びますね」
「え? ちょ、待っ――きゃあぁあぁああああっ!?」
リルの返事を聞かないうちにもう一度ジャンプ。着地、ジャンプと繰り返して城下町へと移動した私でした。
決して。絶対に。慌てふためくリルが可愛いからいつもより余計にジャンプしたわけじゃないですよ?
『……やはりミラカ様はドSなのにゃ……』
アヤネがそんなことをほざいていました。こんなにも心優しい私を捕まえて酷い黒猫ですね。
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