第23話 黒猫の名前
翌日。
「一応は従魔らしいですし、黒猫の名前をさくっと決めちゃいましょうか」
私が提案すると黒猫は微妙そうな顔をしました。
『従魔の名前は一度決めたら変更できないにゃ。『さくっ』と決めるのは止めてほしいのだにゃ』
「では、黒猫だからクロでどうでしょう?」
『人の話を聞くにゃ! さくっと決めるのは止めてほしいのだにゃ!』
「え~? 正直、猫の名前を決めるのに頭使いたくありません。タマとかミケでもいいですよ?」
『この主、鬼畜過ぎるのにゃ……』
「鬼ですし。吸血鬼ですし」
『……じゃあ、これでどうかにゃ?』
黒猫の身体がぱぁああっと光り輝き、美少女に変身しました。この前より変身シーンが短いのは魔法少女もののお約束でしょう。初回は長く、二回目以降は省略。これ世界の常識ね。
それはともかく、黒髪な猫耳美少女の名前をテキトーに決めるわけにもいかないでしょう。
「う~ん、黒髪だからクミィ、クローシェ、クーリエ、クーラン、クジェミ、クウェイ、クコ、クピィ、クニス、クゼリ、クハイン、クラス、クアリエ、クヤリ、クウィリン、クアヴィー、クフィーリア――」
『よくもまぁスラスラと。その語彙力を最初から発揮して欲しかったのにゃ……』
「駄猫と黒髪美少女との扱いが同じわけがないでしょう? 美少女のためには頑張らないといけない。これ王国法にも書いてあります」
『書いてないのにゃ。王族が気軽に法律を変えちゃいけないのにゃ。あと猫形態と人形態は同一人物にゃから。どっちも間違いにゃく私にゃから』
「ゴチャゴチャ言っていないでさっさと決めてください」
『そんなこと言われてもにゃ~、なんにゃか『ピン!』とくる名前がないのだにゃ~』
「贅沢な」
『一生使う名前なのにゃから、贅沢でも何でもないのだにゃ』
う~んう~んと悩む黒猫です。なんだか時間がかかりそうですね。
今日はこのあとリルを誘って町に出ようと考えていますので、黒猫に付き合っている暇はありません。
『なんにゃかぞんざいに扱われた気がするのだにゃ』
「そのとおりですね」
『否定すらしないのにゃ……やはりこの鬼畜を主に選んだのは間違っていたのかにゃ?』
「クーリングオフは随時受け付けております」
「うぅ、鬼にゃ、鬼がいるにゃ……。でもあんな大口を叩いて出てきたのに成果無しで里に帰るのも無理にゃし……」
いつもの黒猫形態なら放っておくところ。ですが、今の黒猫は美少女形態。美少女が痛そうに胃の辺りを押さえている姿は見るに忍びないですね。
「……あなた、前世の名前は何だったんですか?」
『へ? イバラキ・アヤネだにゃ』
「では、アヤネでいいのではないですか?」
『……アヤネという名前にいい思い出はないのにゃ』
「ならばこれから楽しい思い出を積み重ね、嫌な思い出なんて塗りつぶしてしまえばいいでしょう?」
『……砲丸投げされたりアイアンクローされるのはいい思い出じゃないのにゃ……』
「名前を付けて正式な従魔になるのですから、これからはそんなことはしないです――いえ、しないよう善処します」
『なぜわざわざ言い直すのにゃ!? 善処って、それ絶対反故にするパターンにゃよね!?』
「えぇい、ゴチャゴチャうるさいです。あなたの名前はアヤネ。はい決定」
私が宣言すると黒猫――アヤネの頭上に光が降り注ぎました。きっと私のネーミングセンスを神が祝福しているに違いありません。
『うわ、登録されちゃったのにゃ……手遅れなのだにゃ……』
頭を抱えるアヤネでした。あまりに素晴らしい名前なので感動しているのでしょうきっと。
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