第16話 リルさん(怒)
「どこに行っていたんですか?」
部屋に戻ると。起きてしまったらしいリルがふくれ面をしていました。逃がさないとばかりに私の服の裾を掴んできます。
美少女のふくれ面とか超可愛い。――じゃなくて。
「え~っと? ちょっと人助けを?」
うん、人助けでいいはずです。私が行かなくても大丈夫だった上にヒロインの覚醒も邪魔しちゃいましたけど、重要なのは助けようとする気持ちだと思うのですよ、えぇ。
「……それなら仕方ないですけど。ミラカは王女なのですよね? こんな時間に一人で出歩くのはどうかと思います」
何という正論。ぐぅの音も出ません。
「ぐぅ」
ささやかな反抗としてぐぅの音を出した私ですが、事態が好転するわけではありません。
じとーっとした目で私を見つめてくるリル。特殊な趣味の方からすればご褒美でしょうが、残念ながら私にそのような性癖はありません。……ないですって。ちょっとドキドキしてますけど。
うむ、このままだと変な趣味に目覚めそうです。
「わ、わー、今日は人助けして疲れてしまいましたー早く眠って休息を取らないとー」
我ながら棒読みでしたが、リルも納得してくれたみたいなのでこのまま就寝ということに――
――あの、リルさん? なんで私の服の裾を掴んだままなんですか? なんでそのままベッドに入ろうとするんですか? 服を掴まれたままだと一緒のベッドで眠らなきゃならなくなるんですけど?
服を引っ張り返してみますが、びくともしません。さすが狼男(ラスボス?)を一刀両断ならぬ一ステッキ両断しただけのことはあります。
リルにはほとんど筋肉がついていないのでたぶん身体強化の魔法を使っているのでしょうが、私だって吸血鬼。素の状態で今のリルに負けない力を発揮する自信はあります。
でも、そうすると服が裂けますよね。確実に。
これ、シルク。ちょう高い。前世庶民としては気軽に裂いていいものではありません。
「あ、あの~? リルさん?」
「ミラカは王女なのですから、一人で出かけるのは危険です。人助けを止めるつもりはありませんが、これからは私もついて行きます」
伝説に謳われるマホウ・ショウジョが護衛につくのなら下手な護衛騎士より安心できますね。
それと同衾させられそうになっている現状は繋がりませんけど。
「ミラカが出かけるとき、一緒のベッドで寝ていればすぐに気がつけますからね」
黙って出かけてしまった私としては中々反論しがたいです。
というか、いつの間にか呼び捨てされていますね。いえこの世界の人間ではないリルに礼儀うんぬんをうるさく言うつもりはないですけど。家族以外から呼び捨てにされるのは初めてなのでちょっとドキドキです。美少女からなら尚更に。
「…………」
色々ありすぎて忘れがちですけど、リルは今日この世界にやって来たばかりなのですよね。しかも異世界転移の方法を知っている狼男は倒してしまいましたし、もしかしたら口に出していないだけで不安なのかもしれません。
言葉が通じないのですから他の人に話を聞くこともできなかったでしょうし。
で、そんな少女を私は一人置いて出かけてしまったと。
目が覚めたとき、広い部屋に一人残されていたリルの気持ちを思うと心が痛みます。罪滅ぼしも兼ねて、今日はなるべく近くにいてあげた方がいいのかもしれません。
と、いうわけで。
私はリルと一緒のベッドで眠ることにしました。
そう、超絶美少女と一緒に。
役得などとは考えていません。決して。
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