第11話 魔法少女との同衾。その2



 平和は訪れませんでした。

 だって同衾問題は解決してませんもの。


 とりあえず窓に鍵はかけたので、もう黒猫がやって来ることはないでしょう。


 魔物が跋扈する西方の森に投げ捨てたので下手すれば死にますが、まぁ、ランクAのブラッディベアに勝てるそうなので問題はないはず。


 そんなことをしている間にリルがお風呂から上がってきました。


 濡れた美しい金髪とか、わずかに上気した肌とか、濡れた犬耳とか揺れる尻尾とか。とてもとても可愛らしいです。ポニーテールを降ろした影響か少しばかり大人びて見えますね。


 ハッキリ言いましょう。

 湯上がりの美少女とか破壊力がありすぎます。よく鼻血を出しませんでした私。自分で自分を褒め称えましょう私。


 ……まぁ、鼻血が逆噴射しなかった理由はちゃんとありまして。


 リル、お風呂に入ったのになぜかまた魔法少女の衣装を着ていたのです。あの原色&フリフリの。

 いえ、これはこれで可愛いとは思うのですが、いかんせん自室という日常空間においては萌えよりも違和感が先行してしまうのです。


 というか、メイドさんが着替えを用意しておいてくれたはずですよね?

 私が首をかしげるとリルは魔法少女っぽいポーズを決めました。


「魔法少女にとってこの衣装は正装です! どうぞお気になさらずに!」


 いや気になりますって。これから睡眠なんですよ? そんなフリフリ衣装で寝るつもりですかあなた? 翌朝にはシワで悲惨な状況になりますよ正装とやらが。


「大丈夫です。この服には強化と自動回復、浄化の魔法がついていますから!」


 そういう問題じゃ――いえ、シワにならないのならいいのでしょうか別に?


「いいのです! それに、常在戦場の心意気を忘れてはいけませんから!」


 いやですねぇ常在戦場とか口走る魔法少女。もう少しイメージというものを大事にして欲しい――大切断スプラッターなリルに対しては今さらですかね。


 ……それに、よく考えてみればいきなり異世界へと召喚されたのですから警戒する気持ちは分かります。魔法少女服が戦闘服であると考えれば脱ぎたくないのも当然かもしれません。多少の違和感には目をつぶり、魔法少女服を寝間着にすることを許容するべきなのでしょう。


 私が自分を納得させていると、部屋を見渡していたリルがなぜかモジモジし始めました。


「……えっと、ミラカさん。ベッド、一つなんですね……」


 頬を赤らめながらそんなことを口にするリルです。いやいやなんでそんな真っ赤になっているんですか? 友達の家でお泊まり会をして、一緒のベッドで寝るなんて普通でしょう?


 ……普通、ですよね? ちょっと自信なくなってきましたけど。なにせ前世の私は冷静に考えると色々おかしい女性関係(意味深)を送っていましたし。


 そもそもの問題は、私とリルは出会ったばかりで、けっして友達と呼べる間柄じゃないってことですか。


 ほぼ赤の他人と同じベッドにinとか、ちょっとした拷問ですね。

 いえリルは美少女なのでご褒美ですけど。むしろ望むところ――


 ……いやいや何を考えているのか私。これではまるで、可愛ければ誰でもいい女たらしみたいじゃないですか。


 頭を冷やすためにも私はバスルームに向かい、お湯をわざわざ魔法で水に戻してから『ばっしゃーん』と頭から被りました。ちょう冷たい。


 その後は水をまたお湯に戻してから身体を温め、ベッドのある部屋まで戻ると――リルはベッドの上で眠っていました。


 しかもど真ん中に丸まって眠っています。王族使用で大きめとはいえシングルベッド。私が寝るスペースはなさそうです。


 よく考えたらラスボス(?)との戦いの最中に異世界へと召喚されたのですから疲れがたまっていたのでしょう。それは分かります。分かりますけど……。


「……なんだかなぁ」


 悶々としていた私がバカみたいですね。


 私はため息をつきながら魔法で空気を塊として固定し、その上で眠ることにしました。即席のエアーベッドですが下手するとこっちの方が寝心地はいいかもしれませんね。



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