第10話 魔法少女との同衾
喋る猫がいたのでビックリした。
城壁の向こう側まで吹っ飛んだのは身体強化の魔法をかけたから。
と、いう感じでリルには誤魔化しました。
リルはこちらの言葉が理解できないので、黒猫がほざいていた始祖うんぬんはたぶんセーフ。
まぁそれは別にいいのです。奇っ怪な猫のことなど忘れてしまえば問題ではありません。
問題は、この部屋にあるベッドが一つなこと。まぁつまり端的に言うとこのままだと魔法少女と同衾することになりそうなのです。
同衾。
一緒の布団で眠ること。そんな言葉であるので『あは~ん』や『うふ~ん』な意味も込められることが多々ある。
いやないですから。いくらここが異世界とはいえ、出会ったばかりの人と同衾するとかないですから。
私は部屋付きのメイドさんにもう一つベッドか布団を用意するようお願いしましたが、『いえ、陛下から命じられておりますので……』と言うだけで行動する気配がありません。あのエロじじい――じゃなくてお父様がすでに根回ししているようです。
初対面の子と同棲させようとするとか、王族としてどうなのでしょうか?
……あ~でも貴族社会ですしね。初めて会った人とその夜に 合☆体 することもあり得るのですか……。いやいや合体とかないですから。私たち女同士ですから。いくら女性同士で子供が作れる昨今とはいえ……。
私が一人悶々としていると、メイドさんがお風呂の準備ができたと教えてくれました。この世界は魔法があるので比較的簡単にお湯が沸かせるのです。
まぁ、私室に湯船付きのバスルームがあるのは王侯貴族くらいでしょうけど。
こういうときはお客さんに一番風呂を譲るべき。そんな日本人的な発想をした私はリルにお風呂を勧めました。
リルの態度からして『一緒に入りましょう』 的なお誘いがあるかと思ったのですが、リルはあっさりと一人でバスルームに行ってしまいました。
ちょっと寂しい。
……って、違います。別にリルとお風呂に入れなくて残念などと思っていません。これは、そう、可愛がっていた野良猫に外で遭遇して、声をかけても無視されたあの感覚です。リルは猫というより犬ですけど。
『――なに一人でぶつぶつ言っているのにゃ?』
いつの間にか窓枠に黒猫がカムバックしていました。
「出たな、ショッ○ーの改造人間」
「私はショ○カーでも改造人間でもないのにゃ――んにゃ? シ○ッカー? もしかして始祖様は前世の記憶持ちなのかにゃ?」
衝撃の事実発覚。まさか喋る黒猫に前世の記憶があったなんて! ……いやまぁショッ○ーで判明しちゃうのが何というかアレですけど。
「いや~まさか始祖様にも地球の記憶があったとは驚きなのにゃ。ちなみに西暦何年ごろなのにゃ? 私は――んにゃ?」
前世トークに花を咲かせようとしている黒猫の頭を、私はむんずと掴みました。
・勇者召喚で魔法少女。
・ボスっぽい存在を大切断。
・乙女ゲームの悪役令嬢だと思い出す。
・喋る黒猫と、吸血鬼の始祖。
今日だけで色々と起こりすぎです。私の頭の許容量はオーバーしました。これ以上情報を詰め込まれたらパンクします。
なので、
「ビバ! スローライフ!」
私は平穏な日常を守るため、もう一度黒猫を窓の外へと放り投げました。
平和を愛する私の想いがこもっていたからでしょう、黒猫は城壁を大きく越え、魔物が跋扈する西方の森の中へと消えていきました。
「またなのにゃーーーーーっ!?」
黒猫の叫び声と共に平和は訪れたのでした。第一部完。
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