第12話 助けを呼ぶ声
さて、魔法で即席のベッドを用意した私ですが。
眠れません。
なにせ同じ空間で超絶美少女が寝息を立てているのです。平穏にスヤスヤと眠ることができるでしょうか、いやできない(反語)
いえ私は前世も今世も間違いなく女性なのですけれどね。同性すら魅了するリルは魔性の女に違いありません。私が女好きなわけでは決してないのです。
私が何度も自分に言い聞かせていると、窓を叩く小さな音が聞こえました。
予想するまでもありません。先ほど二度目の投擲をした黒猫です。
無視してもいいのですが、あまり騒がれてリルが起きてしまっても可哀想です。仕方ないので私は窓を開け、黒猫を中に入れてやりました。
その際に『騒いでリルが起きたら三味線の皮にしますよ?』と脅したら借りてきた猫のように大人しくなりました。うんうん、最初からこうしておけばよかったかもしれません。
『鬼にゃ。鬼なのだにゃ……』
鬼ですし。吸血鬼ですし。
『おかしいにゃ。始祖様の猫好きは有名にゃ話。こんなにプリティにゃ私を窓から投げたり三味線の皮にするはずがないのだにゃ……』
自分でプリティとか言っていますよ。失笑ものですね。
『始祖様の目は節穴なのかにゃ? 今日だって街を歩いていたらひっきりなしに雄猫からお誘いを受けたというのに!』
発情期にぶち当たっただけでは?
『ぐはっ! なのにゃ!』
思い当たる節があったのか黒猫はゴロゴロと床を転がっていました。
私を始祖扱いしてくるのは困りものですが、大人しくしていればただの猫なので可愛くはあります。
私がしばらく床を転がる猫を見て萌え萌えしていると、
「……ん?」
誰かの叫び声が耳に届きました。私は普通の人よりは耳がいいのです。これもよく考えてみれば吸血鬼としての力なのでしょう。凄いぞ吸血鬼イヤー。
場所は王都の下町あたりでしょうか? その方向へ耳を澄ませると、助けを求める女性の声と、男性複数の乱暴な声が聞こえました。
なにやら危機的な状況のようです。
「…………」
私は神様ではありませんので、すべての不幸な人を救うことなんてできませんし、誰かを助けられるほど立派な人間でも無いと思います。今までも、これからも、私の知らないところで数多くの人が不幸になっていくのでしょう。
ですが、この耳に、助けを求める声が届いたのなら話は別です。
私が大好きな前世の『ヒーロー』たちは、助けを求める人々を決して見捨てませんでした。
それは彼らが改造人間であろうと変わりませんし、宇宙人であっても、機械人類であっても同じです。
であるならば、吸血鬼の私が行動しても構わないでしょう。
私は窓枠に足をかけ、『よいせっ!』と跳躍しました。普通の人間では四階からの跳躍は自殺行為ですが、そこは吸血鬼。私は一回のジャンプで西塔から飛び出し、王宮の城壁を越えることができました。
吸血鬼としての自覚はなかった私ですけれど、自分の身体能力くらいは把握しています。
……把握しているのになぜ今まで疑問に思わなかったのかというツッコミは受け付けておりません。すべては子供だった私を騙した魔導師団長が悪いのです。
『ど、どこにいくにゃ!?』
黒猫の叫びを背中に受けながら私は下町へと向かいました。
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