第7話 閑話 とある魔法少女の物語。その2(リル視点)


 閑話 とある魔法少女の物語。その2(リル視点)



 ……すべてが終わったあとに感じたのは、達成感。


 周りに見える内装は地球のものとはかけ離れていて、集まった人々の言語も私には理解できないものでしたけれど。それでも、私に後悔はありませんでした。


 たとえ異世界に取り残されたとしても、あの世界が守れたのなら。

 私に後悔はありません。


 私がいなくてもあの子たちなら大丈夫。かつて私を改心させたときのように真っ直ぐ生きていってくれるでしょう。


 奏さんと夕姫さんの恋路を見守れないのは少々残念ですが、信じるしかないでしょう。あの二人なら女性同士という困難すらも乗り越えてくれるはずです。


 と、私が異世界に取り残された不安や寂しさを誤魔化すために奏さんと夕姫さんの未来を想像していると、


「……お初にお目にかかる。私はこの国の王太子、テイン・デーリッツだ。名前を伺ってもよろしいだろうか?」


 二人の百合色の未来を打ち壊すかのように。何とも爽やかなイケメンスマイルを浮かべた男性が私に近づいてきました。


 思い出すのは数ヶ月前のこと。


 私の苦い、苦すぎる初恋。

 こんなイケメンでした。

 こんな金髪野郎でした。

 甘い言葉と態度で私を騙して……結局それは『魔法少女』を倒すための策略でしかなくて……。


 さらに言えば、奏さんと夕姫さんの関係がこじれてしまったのもイケメンが原因でした。


 あのときイケメンが現れなければ。

 私は奏さんと夕姫さんの間を奔走する必要もなかったし、お二人はもっと早く結ばれていたことでしょう。


 イケメンは敵。


 イケメンは警戒せよ。


 顔の良さに騙されることなく警戒していると――気づきました。


 特殊な生まれをした私には、その存在が人の外にあるのかどうかが直感で理解できるのです。かなり上手くごまかしていたので、警戒していなければ騙されていたかもしれません。


 ですが、私はもう騙されません。


 イケメンの顔にも、甘い言葉にも。私は二度と騙されないのです。


「――イケメンは死ねぇ!」


 人の外にある存在なのだから容赦する必要はありません。


 そう、これは黒き存在を打ち倒すための儀式。決して、イケメン憎しから来た行動ではありません。


「魔法少女ものに男は不要! 魔法少女は女の子と百合百合していればいいのです!」


 ありませんが、主張するべきことは主張しておくべきでしょう。

 私が『黒』に女性同士の恋愛の素晴らしさを語ろうとすると――


「――過激派だ!?」


 周りに聞いたこともない言語が溢れる中。耳に届いたのは聞き慣れた言葉――日本語でした。

 

「……日本語?」


 声のした方を向くと、私は容赦なく目を奪われました。


 室内にあっても光り輝く銀の髪。

 アメジストのような光彩を放つ瞳。

 未踏の地の初雪がごとき白い肌。


 ―― 一目惚れ、と言えばそうなのでしょう。


 世界にはここまで美しい人がいるのかと。衝撃と共に感動で打ち震える私です。


 そんな私の感動は、やはりイケメンによって阻害されました。


「くっ! くははっ! 見事だなマホウ・ショウジョよ! まさか俺の正体を見破るとは!」


 もっと“彼女”を見つめていたいのに、高笑いのせいで集中力が削がれてしまう私です。


「くくくっ! 王太子の身体を乗っ取って影からこの国を支配してやろうと思っていたのに、まさかマホウ・ショウジョが現れるとは! だが好都合! 貴様を血祭りに上げて我が覇道の狼煙としてくれる!」


 覇道とか言ってるくせにやってることが『王太子の身体を乗っ取り影から国を支配する』とか。セコくてカッコ悪いですね……。


 ですが、格好良かろうが悪かろうが、平和を乱すというのなら“魔法少女”として見逃せませんね。たとえ私の正体が■■であろうが、ここが異世界であろうがそれは変わりません。


「させません! 魔法少女は絶対に負けません! 魔法少女はみんなに笑顔と希望を届けるのです!」


 そうして私は新たな敵を打ち倒し。

 やっとの事で銀髪の『彼女』と話をすることができたのでした。


 …………。


 近くで見て。触れて。そうして私は確信しました。


 彼女は、私と同じであるのだと。


 私と同じで。


 私と同じ。


 そんな彼女となら、私は、きっと――








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