第6話 閑話 とある魔法少女の物語。(リル視点)


 閑話 とある魔法少女の物語。(リル視点)



 追い詰めた。

 やっとの事で追い詰めた。

 追い詰めた、はずだったのに……。


『――フハハッ! さらばだ魔法少女諸君! 今回は負けを認めてやろう! だが忘れるな! 貴様らの手の届かない異世界で、俺は復讐の爪を研ぎ続けていることをな!』


 異世界への扉を開きながら“魔王”ミスター・フェーンが高笑いをしています。

 巻き起こる突風。

 背筋に走る悪寒。

 その扉に近づけば、それだけで『マズい』と本能が警告を発しています。


 けれど。

 私は、ミスター・フェーンへと――異世界の扉へと向けて一歩踏み出しました。


「リルさん! いけません! もしも巻き込まれたら、戻ってこられないのかもしれないのですよ!?」


 止めようとする陽咲さんに向けて私は力なく笑いかけました。


「たとえ戻れなくても、私は、やらなければなりません。――すべては私の責任なのですから」


「リル……」


「リルちゃん……」


 拳を握りしめる奏さんと、泣きそうな顔をする夕姫さん。こんな私のために、そんな顔をしてくれる皆さんはとても優しく、とても温かく……ゆえにこそ。私は止まるわけにはいきませんでした。


「――ありがとうございました。楽しかったです。本当の仲間になれたような気がして……」


 でも、それはしょせん幻で。


 ■■である私は、いくら改心したつもりでも、やはり彼女たちとは違う存在で。


 共に生きることができないのなら、せめて。せめて最後くらいは本物の“魔法少女”みたいに。


 私は異世界へ転移しようとするミスター・フェーンに突撃し、そして――


 ――次の瞬間に感じたのは、まったく違う空気のニオイ。


 周りを見渡すまでもなく理解します。ここは地球と異なる世界であり、私は一人見知らぬ世界に投げ出されてしまったのだと。


 ……いいえ、一人ではありませんか。


 共に転移してきた『もう一人』に向けて私はステッキを向けました。


「覚悟しなさいミスター・フェーン! あなたの野望もこれで終わりです!」


 軍勢を失い。四天王もすでになく。異世界転移の魔術によって自慢の力も使い果たした“魔王”ミスター・フェーンはなおも醜く抵抗します。


『ま、まて! 異世界転移の方法を知っている俺を倒せば、二度と地球には戻れなくなるぞ! それでもいいのか!?』


 地球。

 みんなのいる場所。

 私が守ろうとした世界。

 温かくて。楽しくて。明日への希望に満ちあふれた世界。


 ――私が、壊そうとした世界。


 その罪が償えるなら。

 あの世界が救えるのなら。


 私一人くらい、どうなってもいいじゃないか。


「構いません! たとえ二度と地球に帰れなくても、ここであなたを倒します!」


 覚悟と共に叫びます。


「――ハニカミ☆」


 私の存在の根幹とすら言える光の帯が空中から現れてミスター・フェーンを拘束しました。


「――スマイル♪」


 かつて憧れた“魔法少女”のように。


 可憐に。

 綺麗に。

 美しく。

 みんなに『笑顔』を届けるために。


 天高く掲げたステッキを両手で握りしめ――


 ――私は、わたし・・・を打ち倒しました。



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