第2話 勇者召喚の儀式


 その事実に気づいたのは、勇者召喚の儀式が原因でした。

 魔王が復活したので異世界から勇者を呼んで倒してもらう。そんなテンプレートにして自分勝手な理由でこの国も勇者召喚を行ったのです。


 謁見の間に準備されたのは召喚の媒体となる、人の身長ほどもある水晶。なにやらケバケバしい装飾で飾り立てられています。えぇ、考案した人の精神異常を疑うレベルのケバケバしさです。目がチカチカしますね。一度目にしたら死んだあとでも思い出しそうなインパクト。


 そのケバケバしい装飾を目にした私は、ふと疑問に思いました。


(あれ? 私、この光景を見たことがある?)


 しかし、そんなはずはありません。前に勇者召喚の儀式が行われたのは100年も昔のこと。現在15歳の私が見たことがあるなど、ありえません。


 100年前の記録をどこかで見た、にしても100年前では『映像記憶』の魔導具もないはずですし、となると絵画ということになりますが、それだとこのような既視感は覚えないでしょう。


 なのに、私は確かに見たことがあります。

 モニター越し・・・・・・でしたけど、確かに、この目で……。


 ……ん? モニター?


 ということは、前世の記憶?


 いやしかし、科学技術の進んでいた前世日本でこんな光景を目にする機会があるとすれば映画とか、マンガとか、ゲームくらい――


 ――ゲーム?


 思い至ったその可能性に私が首をかしげていると、謁見の間が光に包まれました。


「成功だ!」


 視界が光に包まれる中、そんな声が響き渡りました。姿は見えませんが、声色からして今回の責任者である魔導師団長でしょう。


 水晶から発せられた光はだんだんと弱まっていき……、通常の視界が戻ったあと、私は謁見の間に現れた二つの人影を目にしました。


 いえ、正確には一人と一体、でしょうか?


 一体はいかにも『魔王!』とか『ラスボス!』といった悪そうな風貌をしています。漆黒のマントに、トゲトゲしい衣装、隆々とした筋肉。二足歩行ではあるのですが、顔はまるで狼のような形をしています。


 うん、絶対に“勇者”ではありませんね。


 いえ、顔は恐いが実はいい人なんだ~的な展開もあるにはありますが、『もはやこれまで! せめて貴様だけでも道連れにしてくれる!』なんて叫んでいるので悪役で間違いないでしょう。


 そんな狼男(?)と一緒に召喚されたのは銀髪の美少女。


 年の頃は十代後半くらいでしょうか? 身長は女性にしては高め。ポニーテールに纏められた銀色の髪は召喚の余波で柔らかに揺れ動いています。


 目は少々タレ気味ですが、瞳に強い意志が宿っているので気弱な印象はありません。人種的には欧米系? ホリが深くてかなりの美少女です。まさしく西洋人形のよう。


 私も転生後はそこそこの美少女に生まれた自信があったのですけど、“彼女”には負けるかもしれませんね。嫉妬shit


 そんな超絶美少女である“彼女”ですが、やはり一番目を引くのは着ている衣装でしょう。


 フリフリです。

 ものすっごくフリフリです。


 あと色味が原色。

 普段着では絶対に使えない系の原色です。


 一言で言えば魔法少女。

 二言で言えば女児向けの魔法少女です。


 正直、十代後半であろう(高身長な)女性が着るには少々キツいものが……いえ、コスプレ。コスプレと考えればいけますね。美人は何を着ても似合う。これ世界の真理。


 あと、よく見ると犬耳っぽいものやフサフサの尻尾が生えていますけど、衣装の装飾なのか本物なのかはちょっと分かりません。

 魔法少女っぽいパーツと言えばそうですし、この世界には“亜人”が多く住んでいるので本物でも不思議じゃないですから。


 そんな魔法少女(?)がどこからか杖(ステッキ)を取りだし、狼男に向けました。


 あのステッキ。いかにも電池で光ったり音が鳴ったりしそうな外見をしていますね。3,980円といったとこでしょうか?


「覚悟しなさいミスター・フェーン! あなたの野望もこれで終わりです!」


 おぉ、なにやら最終決戦っぽいのが始まりました。

 もちろん“勇者召喚の儀”のために集まった貴族やら貴族の令嬢たちはぽかーんとした顔をしています。


 特に、貴族令嬢。『運が良ければ勇者様と親密になって結婚を!』と意気込んでいたのに、出てきたのは狼男と魔法少女……。うん、君たちは泣いてもいいと思います。


『ま、まて! 異世界転移の方法を知っている俺を倒せば、二度と地球・・に戻れなくなるぞ! それでもいいのか!?』


 狼男が小者っぽいセリフを吐いています。

 失礼ですね。この国の勇者召喚術式をそこらの欠陥品と一緒にしないでいただきたいものです。安心安全に元の世界へお帰りしていただけますともさ。


 そして、地球? 地球と言いました? 私の生きていた地球には狼男も魔法少女もいなかったんですけど?


 大混乱する私に気づくはずもなく魔法少女がステッキをきつく握りしめ、狼男を睨み付けました。


「――構いません! たとえ二度と地球に帰れなくても、ここであなたを倒します!」


 いやだから帰れますって。魔力の補充の関係ですぐには無理ですけど、数ヶ月もすれば帰れますから。


 そんな私の心のツッコミはもちろん届くことはなく。魔法少女は天高くステッキを掲げました。


「――ハニカミ☆」


 決め台詞でしょうか?

 キラリーン! というエフェクトと元に、空中から光り輝く“帯”が何本か現れて狼男の手足を拘束しました。


「――スマイル♪」


 くるくると回りながら、天高く掲げられたステッキを魔法少女が両手で握りしめ――


「――デストローイ!」


 脳天をかち割りました。


 魔法少女が。


 狼男の頭を。


 魔法のステッキで。


 吹き出す鮮血。飛び散る脳漿。その勢いは頭部を破壊しただけでは止まらずに、狼男の胴体までをも縦真っ二つにしてしまいました。


 いやいやなによそのスーパー大切断? あなた魔法少女じゃなくて仮面○イダーア○ゾンなの?

 確かに魔法少女とライダーは同じ『ニチアサ』系だけど、時間を30分間違えてない?


 おっといけない口調が乱れました。ごほん、前世のヒーローのような切断技によって狼男は絶命。鮮血が召喚儀式用の水晶やら国王陛下やら見学の貴族連中に降りかかり、蝶よ花よと育てられてきたご令嬢方は次々に気絶していきました。


 なんという阿鼻叫喚。

 この世に地獄が舞い降りた。


 魔法少女とは夢や希望を振りまくものじゃなかったのでしょうか? 少なくとも敵の血液と脳みそと内蔵を振りまく存在ではなかったはずです。不思議な力で返り血を一切浴びていないのはさすが(?)ですけれど。


 いや、そもそもの問題として。今日は“勇者”を召喚するはずだったのに、なぜ魔法少女が出てきたのでしょうか……?


「……どうしてこうなりました?」









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