第49話 分岐点

 事務所の一室に、張り詰めた空気が漂ってた。


 古びたビルの薄暗い部屋に、タバコの煙が漂い、窓から漏れる街灯の光が床に淡い影を落としてる。


 俺は仲間たちと円陣を組み、角川との対決に備えてた。


 数日前の偽装映像――秋野さんと俺がキスして抱き合うBDを送ったことで、角川が動き出すのを待ってた。


 あの作戦は賭けだった。

 角川の嫉妬と怒りを煽り、自滅に追い込むための策。

でも、ここまで来た以上、後戻りはできない。


 スマホが鳴り、山田の声が響いた。


『唯斗先輩、角川が家から出てきました。西区のコンビニに向かってます。どうします?』


 俺は社長に目をやり、彼がタバコを灰皿に押し付け、「様子を伺え。見失うなよ」と指示した。


「山田、角川の動きを逐一報告してくれ。俺たちも動く」

『了解っす!』


 俺は振り返り、仲間を見た。


 ソファに座る秋野さんは膝を抱え、長い髪が顔を隠してる。


 アイラがその肩に手を置き、ゆあちゃんが隣で手を握ってた。


 総一は壁に寄りかかり、革ジャンのポケットに手を突っ込んでる。


「角川が動いた。そろそろ対決だ。秋野さん…本当にいいの?囮をしたいなんて」


 秋野さんが顔を上げ、「…私にできることなら…やりたいから。それに山坂くんが守ってくれるなら」と小さく頷いた。


 アイラが「莉乃葉、無理しないでくれよ…」と心配そうに言ったが、秋野さんが「大丈夫」と呟いた。


 ゆあちゃんが「唯斗くん…気をつけてね」と囁き、総一が「よし、行くぜ!」と拳を握った。


 西区の裏道に、俺たちは仕掛けを張った。


 角川の豪華な一軒家からコンビニへの道すがら、秋野さんを配置する。


 彼女はコンビニの出口近くに立ち、角川が戻るタイミングで視界に入るよう調整した。


 俺と総一は裏道の物陰に隠れ、アイラがカメラを手に待機。

社長と山田を含む社員数名は、少し離れた場所で車を準備してる。


 作戦はこうだ。

秋野さんを囮に角川を裏道へ誘い出し、彼が秋野さんに迫る様子を撮影。


 その隙に俺が注意を引き、総一が背後から制圧する。

証拠を押さえ、角川を自首に追い込む――それが理想だった。


 山田から連絡が入った。


『角川、コンビニから出てきました。手提げ袋持ってます。中に何か入ってるっぽいです』

「了解。秋野さん、準備いいか?」


 彼女が小さく頷き、コンビニの出口へ向かった。


 俺たちは息を潜め、角川の足音を待った。

数分後、ヨレヨレの服を着た角川が現れた。


 血走った目で周りを見回し、手提げ袋を握り潰してる。


 秋野さんが視界に入ると、彼の動きが止まった。


「莉乃葉…!」


 その声に執着と怒りが混じってた。

秋野さんが怯えたふりで裏道へ歩き出すと、角川が追いかけた。


 俺たちは静かに後を追う。


 裏道の薄暗い路地で、角川が秋野さんに迫った。


「莉乃葉…お前、山坂と何だ? あの映像…ふざけてるのか!?」


 秋野さんが後ずさり、「やめて…近づかないで…」と震える声で言った。


 アイラがカメラを回し、角川の行動を撮影してる。


 角川が秋野さんの腕を掴み、「お前は俺のもんだ! 山坂なんかに渡さねぇ!」と叫んだ。


 その瞬間、俺が前に出た。


「角川! 手を離せ!」


 奴が振り返り、俺を睨みつけた。


「お前…! 莉乃葉を返せ!」


 その隙に、総一が背後から飛び出し、角川を地面に押し倒そうとした。


「動くな、クズ野郎!」


 だが、角川は抵抗し、ポケットからスタンガンを取り出した。


 バチッと音が響き、総一が「ぐっ!」と呻いて膝をついた。


「総一!」


 俺が叫び、秋野さんを角川から引き離した。


 彼女が俺の腕にしがみつき、「山坂くん…!」と震えた。


 角川が立ち上がり、「お前ら全員殺す!」とスタンガンを振りかざした。


 秋野さんが突然声を上げた。


「待って! …もうやめて。今後二度と私やみんなに近づかないと誓うなら…今までのことは許す。お願い…」


 その言葉に、角川の動きが一瞬止まった。

彼の目が泳ぎ、地面に膝をついた。


「…莉乃葉…俺…悪かった…全部謝る…金も返す…だから…許してくれ…」


 泣きながら謝り始めた。

俺は一瞬、信じられない気持ちで彼を見た。

だが、その隙に総一を助けようと近づくと、角川が急に立ち上がり、俺にスタンガンを当ててきた。


 バチッと電流が走る。

 でも、俺は動きを止めなかった。


「それは効かねーんだよ!」


 角川の腕を掴んで背負い投げをかました。


 彼の体が地面に叩きつけられ、スタンガンが転がった。


 その瞬間、気絶したふりをしてた総一が立ち上がり、「おい、唯斗! ナイスだ!」と笑った。


「お前…気絶してなかったのかよ!」

「まぁな。そのスタンガンは俺たちがすり替えておいたんだよ。ずっと監視してたからな。お前が注文した届いたものも把握してたからな」


 裏道にエンジン音が響き、社長の車が現れた。


 アイラと山田を含む社員数名が降りてきて、角川を取り囲んだ。


 アイラが「莉乃葉を苦しめた報いだ!」と怒鳴り、山田が角川の腕を縛った。


 社長がタバコを吹かし、「よくやったな。お前らの苦労が報われた。こいつ、倉庫に連れてくぞ」と低く言った。


 角川が地面で呻きながら、「許してくれ…」と繰り返したが、俺は冷たく見下ろした。


「お前が秋野さんに何してきたか、忘れねぇよ。倉庫でじっくり話そうぜ」


 角川を車に乗せ、俺たちはあの山奥の倉庫へ向かった。


 森の奥に佇む錆びた鉄製の建物。

シャッターが軋みながら開き、薄暗い蛍光灯の下に角川を下ろした。


 秋野さんが俺の隣に立ち、「…これで終わりだね」と呟いた。


「ああ。そうだな。いや…ここから先じゃない?むしろ…。この先のことの方が大事だ」


 彼女の目に、少しだけ光が戻ってた。


 アイラが「莉乃葉、もう大丈夫だよ」と抱きついた。


 ゆあちゃんが車から降り、「唯斗くん…すごかったよ」と笑った。

【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818622172164559528


 俺は仲間を見回した。


 そして、あの場所に向かった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る