第48話 復讐のBD
事務所の一室には張り詰めた空気が漂ってた。
木造の外壁が剥げかけた古い一軒家は、窓から漏れる街灯の光で薄暗く照らされてる。
ソファに座る秋野さんの長い髪が顔を隠し、膝の上で震える手が止まらない。
アイラがその肩を抱き、ゆあちゃんが反対側で秋野さんの手を握ってた。
「ここ数日で分かったことはあいつが金を使って人を雇い、嫌がらせを行っていたってことだな」と、テーブルに証拠の写真を置いた。
「唯斗先輩、次どうするんすか?」
アイラが鋭い目で俺を見上げ、その声には秋野さんを守りたい決意と角川への憎しみが滲んでた。
俺は深呼吸して答えた。
「まずはあいつを止める。止めたうえで拘束し、これまでのことをすべて謝罪させて…それから自首してもらう。これがベストな選択肢だけど、もし従わない場合や怪しい動きがあれば…その時は…。秋野さんにすべてを決めてもらう」
秋野さんが小さく顔を上げ、「…わかった」と呟いた。
その声は弱々しく、迷惑をかけていることに対しての罪悪感に押し潰されそうだった。
俺は一歩近づき、彼女の目を見て言った。
「大丈夫。秋野さんのことは守るから」
ゆあちゃんが「そうだよ…秋野さん、私たちみんなで守るから」と優しく付け加えた。
秋野さんの肩が微かに震え、目に薄い涙が浮かんだ。
「それで?どうする?現時点での証拠はあのBDのみ。本人はあの家にこもりきりときたもんだ」
「それについてですが…一つ提案があるんです。秋野さんには少し負担をかけることになるんですが…」
「言ってみろ」
「…それは」
◇社長室
「角川の借金の情報について掴んだぞ。うち以外に3社から合計250万借りてる。返済滞ってて、締め上げ寸前だ。前回うちに借りて即金で返していたのも、経済的に余裕があるアピールをするためだろうな。豪華な一軒家に住んでるらしいが、あいつ自身は働いてねぇし、親の遺産食い潰してるらしい。今じゃその家以外まともな資産はないってよ。多分、借金も今回の嫌がらせのために使った人件費とかだろ」と、資料を投げながらそう言った。
「…金持ちって聞いてたけど、ただのニートっすか。既に借金漬けなら締め上げやすいっすね」
「おう。俺のツテで各社に圧力かけてもらうように頼んだ。恐らく、今週中に金回りがパンクするように仕向けてくれるはず。動き始めれば、色々と証拠集めやすくなるだろうな。それにお前の作戦もある」と、社長がニヤリと笑った。
「…あれが効くといいんですが」
「効果ばつぐんだと思うぞ。多分そんなことをしてくるなんて考えてもなかったし」
ドアが開き、アイラが入ってきた。
「唯斗先輩、莉乃葉の様子見てきました。ここに来てからは大分落ち着いてるっすけど…、唯斗先輩とは恥ずかしいので距離を取りたいって言ってるっす」
「…そっか。やっぱやめとけばよかったか」
「いや、むしろ喜んでるっすけどね。莉乃葉のメンタルを安定させつつ、あいつに打撃を与える手を思いつくなんてさすがっす!」
「まぁ、まだどうなるかはわからんけどな」
◇角川家
莉乃葉は…誰にも渡さない。
暗い部屋の中で爪を噛みながら、部屋に張られた大量の莉乃葉のポスター。
といってももう金も底を尽きてきている。
いっそ、この家も売るか?そうすりゃ、数億単位で金は入ってくる。
そうすれば…。
そんなことを考えていると、インターホンが鳴る。
配達?この前頼んだスタンガンか?と思いながら、玄関に行く。
「宅配便でーす」
「玄関前に置いておいてください」
「受け取りのサインが必要なんですけど」
面倒だなと思いつつ、周りを確認してからチェーンをかけた状態で出る。
そのまま狭い隙間から紙を受け取る。
差出人は…秋野莉乃葉と書かれており思わず俺はにやっと笑ってしまった。
そのまま、乱雑にサインしてすぐに渡す。
「荷物は玄関前に置いておいてください」
「ありがっとうございやした~」と、去っていった。
ここまで徹底しているのはあいつらが何かを仕掛けてくる可能性を考慮したからだ。
そのまま警戒しつつ、荷物を受け取ると、そこには1枚のBDが入っていた。
まさか、わざわざ返却してきたのか?
あんなものは数千枚ダビングしたうちの一つだ。
別に要らないのだが…と思っていたが、それは俺が使っているBDとは少し違うディスクだと気づく。
少し疑問を抱きながらもそのディスクを読み込ませる。
すると、そこには莉乃葉が映っていた。
なんだこの映像…俺が撮ったやつじゃない。
そう思っていると、例の男…山坂唯斗が画面に現れる。
そして、二人は見つめあうと、見せつけるようにキスをして、抱き合って…、二人で愛を囁きあっていた。
その莉乃葉の表情は俺が唯一引き出すことができなかった、女の子の顔だった。
「ふざっけるな…ふざけるな!!」と、そのままBDを叩き壊す。
あいつら…ゆるさねぇ…!俺の俺の女に!!
絶対殺す…!!
◇
昼過ぎ、事務所に戻るとゆあちゃんが社長室のソファに座ってた。
ミントグリーンのスマホを手に、何かを見てる。
俺の存在に気付くとすぐに顔を上げ、「唯斗くん、おかえり…秋野さん、大丈夫?」と聞いてきた。
「うん…。俺は直接話せてないけど、たぶん大丈夫」」
ゆあちゃんが小さく頷き、「私も…何かしたい」
その言葉に、俺は彼女の成長を感じた。
「ゆあちゃんはそばにいてあげて?それだけで秋野さんは救われてるからさ」
彼女が目を丸くして、「…本当?」と呟いた。
「ああ。本当だ」と頭を撫でると、ゆあちゃんが小さく笑い、「…そっか。頑張るね」と囁いた。
あれから数日…。現時点で動きはない。
その不気味さが逆に自分を不安にさせていた。
逆上して何をするかはわからないが、そうなってくれれば、警察にも突き出しやすくなる。
そう思っていると、数日後のことだった。
監視をしていた山田から連絡が来る。
『唯斗先輩、角川が家から出てきました。西区のコンビニに向かってます。どうします?』
さぁ…始まりだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。