第47話 最後の問題と発端
数日後、進藤は海外に送られた。
社長の知り合いがいる、鎖国的な監獄の国。
恐らく逃げ出すことはほぼ不可能で、そこで罪を償うしかない場所だ。
社長が手配を済ませ、「これで一件落着だな」とタバコを吹かしながら言った時、俺はほっと息をついた。
◇
朝の静けさが俺の家を包んでいた。
秋の風が窓の隙間から忍び込み、心地の良い香りを運んでくる。
ソファに座ってコーヒーを啜りながら、ゆあちゃんがキッチンでクッキーを摘む音を聞いてた。
穏やかな日常が、少しずつ俺の生活に根付いてきてる。
そんな時、玄関のポストがカタンと鳴った。
新聞はもう取ってある。
不思議に思ってドアを開けると、そこには小さな紙包みが落ちてた。
手に取ると、真っ白なディスクだった。
ケースにタイトルも何も書いてない。
差出人の名前もないけど、何か嫌な予感がした。
リビングに戻り、テレビのBDプレイヤーにセットする。
ゆあちゃんが「何ですか?」と首を傾げて近づいてきたが、再生ボタンを押した瞬間、俺は凍りついた。
画面に映ったのは、秋野さんだった。
薄暗い部屋で、彼女が怯えた顔でベッドに押し倒されてる。
男の声が低く響き、「逃げられないよ、莉乃葉」と囁く。
彼女の震える手がシーツを掴み、泣き声が漏れる。
映像は乱暴に進み、俺の胃が締め付けられる。
ゆあちゃんが「唯斗くん…?」と小さな声で呼んだ瞬間、俺は慌てて停止ボタンを押した。
「ご、ごめん。まさかこんなのだと思わなくて…」
ゆあちゃんをテレビから引き離す。
彼女の目が驚きで丸くなり、俺は深呼吸して気持ちを落ち着けた。
差出人は見なくても分かってた。
角川だ。
秋野さんの元カレ。
あのクズが、彼女を縛り続けてる男。
「唯斗くん…あれ、秋野さんだったよね…?」
ゆあちゃんの声が震えてた。
俺は頷き、「ああ…。嫌なの見せちゃつまた。ごめんな」と謝った。
彼女が小さく首を振って、「大丈夫…。でも、秋野さんが心配…」と呟く。
その言葉に、胸の奥で怒りが湧き上がった。
秋野さんが俺に打ち明けた過去が頭をよぎる。
無理やりレンタル彼女をさせられていたり、それがバレてからの暴力、動画での脅し、中絶後の再脅迫。
そして今、このBD。
角川の嫌がらせが、本格的に始まったんだ。
◇
その日の夕方、アイラから電話がかかってきた。
「唯斗先輩、大変っす! 僕の家に変な張り紙が貼られてて…!」
声が慌ててて、息が上がってる。
「張り紙? 何だよ、それ」
「『こいつは反社の人間です』とか、『人を誘拐してる犯罪者』とか…デマばっかり書かれてるんすよ! いや、反社は事実なんですけどね!てか、近所の人に見られたらどうしよう…!」
アイラの焦りが伝わってくる。
俺の頭に血が上った。
「角川だ。俺の家にも…秋野さんの映像が送られてきた。アイラの家にも嫌がらせ始めたみたいだ」
「莉乃葉の…!? あのクソ野郎…!」
アイラが歯軋りする音が聞こえた。
俺はすぐに総一に連絡を取った。
「ん~?どした?」
「秋野さんは無事か?」
「なんだよ急に。別に何もないけど」
そうして、今起こっていたことを軽く説明する。
「んったく…、次から次へと面倒な」
「同意見だな」
電話口の近くで小さく「…ごめん、山坂くん…私のせいで…」という声が聞こえた。
「これはあいつが悪い。俺らが何とかするからって伝えておいて」
「はーい」
彼女の声が震えてて、虚ろな目が想像できた。
あの公園で見た空っぽな表情が、また彼女を覆ってるのかもしれない。
そうして、いつも通り仕事をして、家に戻ると、玄関に新たな紙が貼られてた。
『山坂唯斗は誘拐犯。警察に通報済み』
赤いマジックで殴り書きされた文字が、夕陽に映えて不気味だった。
ゆあちゃんが俺の後ろで立ち尽くし、「唯斗くん…これ…」と怯えた声を出した。
俺は紙を剥がして丸め、「大丈夫だ」と彼女を落ち着かせた。
でも、心の中では怒りが収まらなかった。
角川は俺たち全員を巻き込んで、秋野さんをさらに追い詰めようとしてる。
◇
翌朝、俺は社長室に直行した。
社長がデスクに肘をついて、「どした、山坂」と低く尋ねた。
俺はBDを机に置き、「秋野さんの元カレからです。こいつ、俺とアイラの家に嫌がらせ始めてます。張り紙貼ったり、デマ流したり」
社長が目を細め、BDを手に取った。
「…何が入ってる?」
「秋野さんが…無理やりされてるやつです」
社長の手が止まり、眉間に皺が寄った。
「どうしもないクズだな。で、どうしたい?」
「角川を…止めたい。秋野さんを救いたいです」
社長がタバコを灰皿に押し付け、「止めたい…ね。そうか…。それなら俺も乗ろう。彼女には事務所で色々事務仕事も手伝ってもらった仮もあるからな。それとこのBDは証拠になる。つか、名前も住所もわかってるなら話ははえー」と頷いた。
その時、ドアが開いて総一が入ってきた。
「おい、唯斗。秋野さん連れてきたぞ」
革ジャンを羽織った総一がそう言った。
「悪いな。多分、ここが一番安全だから。総一の家までばれたら大変だし、秋野さんにはしばらくはここで過ごしてもらう」
「おう。見張りは俺も協力するぜ?実はさ、弁護士になるために法律勉強しててだな…。この映像があれば、脅迫罪で追い詰められる可能性あるぜ」
総一がニヤッと笑い、俺は驚きながらも安心した。
「そっか。色々悪いな」
社長が「ほう、総一が法律か。面白いな」と呟き、タバコに火をつけた。
◇
秋野さんをいつもゆあちゃんが使っていた部屋に連れていった。
二人きりになるとすぐに「山坂くん…ごめん…」と謝った。
「いいって。角川が悪いんだ。謝る必要は何もない」
「でも…」
「俺はもう妥協しない。大切な人を守るためならなんだってする。けど、手段はちゃんと考える。バカなりにね」と、笑いながらそう言った。
すると、次々に人が入ってくる。
総一が「脅迫罪なら立件できる可能性ある。あとは角川の居場所と、この動画もそうだし、過去のことも履歴に残っていたら証拠としては十分だと思う」と言いながら六法全書を片手にやってくる。
その後を追うようにアイラが「莉乃葉をこんな目に遭わせたやつ、絶対許さない。唯斗先輩、僕は何でもしますから」と目を燃やした。
そして、社長が入ってきて「ひとまずあいつの家に人を張らせておく。何か動きがあれば証拠になるだろ?今回はそういう手段はなるべく使いたくないってことだろ?」と、全てを察したように社長が言った。
「できれば…です。警察や司法が正しい判断をするとは限りませんから。その時は…」と、俺はすべてを決めた覚悟でそうつぶやいた。
秋野さんが小さく顔を上げ、「…ありがとう…みんな…」と呟いた。
その目に、少しだけ光が戻ってる気がした。
でも、角川の影はまだ消えてない。
あいつの嫌がらせは、これで終わりじゃないだろう。
俺は心の中で誓った。
秋野さんを救うと。
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