第50話 これからのこと

 山奥の倉庫に、冷たい空気が漂ってた。


 錆びた鉄製のシャッターが軋みながら閉まり、薄暗い蛍光灯がコンクリートの床に淡い光を投げかけてる。


 角川は椅子に縛られ、うなだれてた。


 血走った目が虚ろになり、ヨレヨレの服が汗で濡れてる。


 俺は彼を見下ろし、胸の奥で燻ってた怒りがようやく静まりつつあるのを感じた。


 社長がタバコを吹かし、「そんで?こいつ、どうする?」と低く聞いた。


 総一が肩をすくめ、「脅迫罪と暴行未遂の証拠は揃ってる。自首させて警察に突き出すか、今ここでやるか…だな」と答えた。


 アイラが「莉乃葉をあんな目に遭わせたクズ…自首で済ますなんて甘いと思うっす」と目を細めた。


 俺は秋野さんに目をやり、「秋野さんが決めてくれ。角川が言った『許してくれ』を受け入れるか、それとも…」と…。


 秋野さんが一瞬目を伏せ、深呼吸した。


「…私、もう怖くないよ。山坂くんたちが守ってくれたから。こいつには…自首してほしい。ちゃんと罪を償って、二度と私やみんなに近づかないでほしい…。ううん、もう誰にも手を汚してほしくない」


 その言葉に、角川が小さく震え、「…分かった…自首する…」と呟いた。


 俺は冷たく頷き、「なら、それでいい。山田、警察に連絡してくれ」


 山田が「了解っす」とスマホを取り出した。



 ◇


 倉庫を出ると、夜が明け始めてた。


 森の木々が朝靄に包まれ、遠くの空が薄いオレンジに染まりつつある。


 車に乗り込む前に、ゆあちゃんが俺に近づき、「唯斗くん…すごかったよ」と笑った。


 その小さな笑顔に、俺の心が軽くなった。

「ゆあちゃんもな。秋野さんを支えてくれて、ありがとう」


 ゆあちゃんが目を丸くし、「…私、役に立った?」


「ああ。秋野さんが立ち直れたのは、ゆあちゃんがそばにいてくれたからだよ」


 彼女が小さく頷き、「…そっか。よかった」と囁いた。


 アイラが秋野さんの肩を抱き、「莉乃葉、もう大丈夫だよ。やっと自由になれたね」と涙声で言った。


 秋野さんがアイラの手を握り返し、「…うん。アイラ、ありがとう。私…これから頑張るよ」と微笑んだ。


 総一が「一件落着だな! お前ら、よくやったぜ!」と笑いながら俺の背中を叩いた。


 社長が車に寄りかかり、「お前らの苦労が報われたな。角川の借金も締め上げ完了だ。まぁ、仕上げは残ってるが」とタバコを地面に捨てた。


 俺は仲間を見回した。


 この数日、角川の脅しに耐え、偽装映像で挑発し、裏道で戦った。


 みんなが力を合わせたからこそ、ここまで来れた。


 そうして、俺たちは倉庫を後にした。



 ◇


 角川が一人、倉庫の椅子に縛られたまま残されてた。


 薄暗い蛍光灯の下で、彼の呼吸が荒く響いてる。


 数分後、倉庫のシャッターが再び軋みながら開いた。


 数名の警察の男たちが入ってきた。

角川が顔を上げ、「…警察か?」と呟いた。


「角川翔太、お前を恐喝、暴行、強姦、監禁などの複数の容疑で逮捕する。証拠品は既に押収済みだ。観念しろ」


 男が冷たく告げた。


 すると、角川の目が泳ぎ、突然泣きながら叫び始めた。


「あいつらに脅されてやらされたんです! 俺は悪くない! あいつらは人殺しの反社の人間で…!」


 男が一歩近づき、「…自首するんじゃなかったのか?」と低く言った。


「え?」


 角川が呆然とすると、男の顔が微かに歪んだ。


 それは警察ではなく、山田だった。


 制服は偽装で、隣に立つ数人も社長の部下たちだ。


「そうか、残念だ」


 角川が絶望的な顔で呻いたが、シャッターが閉まった。



 ◇


 少し離れた山間のキャンプ場に、俺たちは移動してた。


 森の木々に囲まれた開けた場所に、テントとテーブルを並べ、焚き火の準備を始めた。


 朝陽が昇り切り、空が青く澄み渡ってる。


 風が木々を揺らし、鳥の声が遠くから聞こえてきた。


 ゆあちゃんがテーブルにコンビニで買ったおにぎりやサンドイッチを並べ、「唯斗くん、パーティだね!」と笑った。


「ああ。そうだな」

 彼女が目を輝かせ、「…うん! 秋野さんも一緒にね」と手を振った。


 秋野さんがテントの横に座り、「…こんな場所、初めてだよ。気持ちいいね」と呟いた。


 アイラが隣に座り、「莉乃葉もようやく落ち着けるね。もう怖いものないもん」と微笑んだ。


 秋野さんがアイラの手を握り、「…うん。アイラのおかげだよ。私、頑張るから」と小さく笑った。


 総一が焚き火に火をつけ、「おい、唯斗! サンドイッチ一個くれよ!」と手を伸ばし、俺が「自分で取れよ」と笑いながら渡した。


 ゆあちゃんが焚き火のそばで小さく歌い始めた。


「♪森の木々が囁いて~朝の光が笑ってる~」


 その声が優しく響き、俺たちは自然と聞き入った。


 秋野さんが「…ゆあちゃん、歌上手いね。私も歌いたいな」と呟き、ゆあちゃんが「一緒に歌おう!」と手を差し出した。


 二人が並んで歌い始めると、アイラが「私も混ぜてくれっす!」と加わり、総一が「音痴だけどな!」と笑いながら拍子を取った。


 俺は焚き火の炎を見ながら、胸の奥が温かくなるのを感じた。


 秋野さんが歌い終わり、「…私、ずっと怖かった。でも…みんながいてくれたから、こんな風に笑える…」


 その声が少し震え、俺は彼女に近づいた。


「秋野さんは大切な友達だから」


 秋野さんが目を丸くし、「…覚えててくれたんだ。ありがとう、山坂くん」と微笑んだ。


 焚き火がパチパチと音を立て、夕暮れが近づいてきた。


 ゆあちゃんが「唯斗くん…これからもみんなでこうやって集まれるよね?」と聞いてきた。


「ああ。当たり前だ。お前らがいれば、俺はどこだって行くよ」


 彼女が小さく笑い、「…約束だよ」と指切りを求めた。


 俺が指を絡めると、仲間全員が輪になって指切りを始めた。


 秋野さんが「私も…入れるよね?」と手を伸ばし、俺たちが「当たり前だろ!」と笑い合った。


 キャンプ場の空に、星空が降り注ぐ。


 俺は仲間を見回し、心の中で呟いた。


 これが新しい始まりだ。秋野さんの未来も、俺たちの未来も、ここからだ。

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