第25話 猫カフェにGO

 ◇1週間後


 アイラに秋野さんを預けてから1週間が経った。


 コンビニのバイトは辞表を出して足跡を残さないように細心の注意を払い、あいつにバレないよう動いてきた。


 アイラが出勤する時は一緒に事務所へ連れて行き、秋野さんにはお手伝いとして事務仕事を静かにこなしてもらってる。


 本当は元カレの話を詳しく聞きたかったけど、話題を振ると彼女の体が震え出し、目をぎゅっと閉じるから、あまり踏み込めずにいた。


 その間、あの刑事との約束を果たすため、社長に悟られないようコソコソ調べ物をしたり、慌ただしい日々を送っていた。


 そんな中、久々の休日。

ソファに寝転がってダラダラ過ごしていると、扉のそばでゆあちゃんが腕を組んで立っているのが目に入る。


 小さな体が微動だだにせず、じっとこちらを見下ろしてる。


「…ゆあちゃん?」

「…遊園地…途中…」


 単語をポツポツと吐き出すその口調に、遊園地を途中で切り上げたことへの不満が滲んでる。


 事情があったとはいえ、何のフォローもしてなかったことに気づかされた。


 子供らしい態度を見せてくれて、なんだか父親になった気分が少しだけ分かった気がする。


「…よし、じゃあどっか出かけようか。出かけたい場所ある?」と聞くと、ゆあちゃんがスマホを差し出してきた。

画面には猫カフェの写真。


「…猫カフェか。いいね。よし、ここに行こう」


 早速準備を始める。

俺が運転する間、助手席のゆあちゃんはスマホで猫の動画を流しっぱなし。


 時折小さく笑い声を漏らして、モチベーションを高めてる。

そんなに猫が好きなら飼うのもありかもな。俺も猫は嫌いじゃないし。


「猫好きなの?」

「…好き」

「品種は何が好き?」

「…うーん…えっと…スコティッシュフォールド」

「おぉ〜いいね。耳がペタってなってるやつだ」

「…唯斗さんは…何が好きですか?」

「めちゃくちゃ無難だけど、アメリカンショートヘアかなー」

「可愛いですよね」


 猫トークで盛り上がりながら、30分ほど車を走らせて猫カフェに到着。


 木目調の外観にガラス窓が映え、入口に「Cat Cafe」と書かれた看板が揺れてる。


「おー、なんかおしゃれな雰囲気だね」と言うと、ゆあちゃんがうんうんと勢いよく頷いた。


 店に入る前から、ドアの隙間から「にゃ〜にゃ〜!」「にゃっ!」と猫の声が漏れてくる。


 店内は木の温もりが漂う空間で、棚に猫が寝そべり、床には毛玉のおもちゃが転がってる。


 店員さんがカウンターから顔を上げ、俺を見て一瞬怯えた表情に。

そりゃそうだ。


 平日の昼間にコワモテの男が猫カフェに来るなんて、恐怖しかないだろう。


 でも、ゆあちゃんが隣にいるのを見て、店員の顔がほっと緩む。


「2人なんですけど大丈夫ですか?」と聞くと、「はい、大丈夫です!今は他にお客さんもいないので!」と明るく返ってきた。


 店内に入ると、ゆあちゃんの周りに猫がワラワラ集まってくる。


 スコティッシュフォールドやメインクーンらしき子たちが足元でスリスリしてる。


 一方、俺は餌を持ってるのに、数匹がチラッと見て「にゃ」と鳴くだけで近寄ってくるのは少数。


 餌目当ての猫が俺の手からカリカリを奪うと、さっと離れていく。

人にも猫にも嫌われがちだな…。


 でも、ゆあちゃんが猫と戯れる楽しそうな顔を見て、つい笑みがこぼれる。

膝に猫を抱えて撫でる彼女の姿が、穏やかな空気を店内に広げてる。

【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818622170428738364


「にゃー」と一匹が俺に餌を急かしてくる。「はいはい、ごめんな」と餌を差し出すと、さっと奪って去っていく。おじさん…悲しいよ。


 そんな中、一匹の猫がトコトコ近づいてきた。


「…にゃー」と小さく鳴き、餌目当てかと思ってカリカリを差し出すと、じっと見つめた後、ちょこんと膝に飛び乗る。


 ふわっとした毛並みが温かく、喉をゴロゴロ鳴らしてる。


 店員さんがその様子を見て、「お兄さんすごいですね。その子、全然懐かない子なんですよ」と声をかけてきた。


「え?そうなんですか?」


 よく見ると、その猫の目元がゆあちゃんに似てる気がした。


「…ありがとうな」と優しく撫でると、気持ちよさそうに目を細める。


 その表情がたまらなく可愛くて、「うりうり」と言いながら頭をくしゃくしゃにしてると、ゆあちゃんが猫を抱えたままこっちを見つめてきた。


「…ん?どうした?」

「…猫と…私…どっちが可愛いですか?」


 嫉妬っぽい口調が可愛らしくて、「猫も可愛いけどね。ゆあちゃんのほうが可愛いよ」と返す。


 すると、目をキョロキョロさせてモジモジし始め、頬が微かに赤くなる。


 その仕草が愛おしくて、普段はしないけど写真に収めたくなった。


 スマホを構えると、ゆあちゃんは慌てて猫で顔を隠す。そんな攻防を繰り返してると、店員さんがクスクス笑い、23歳の俺は恥ずかしさに顔を熱くした。


 2時間ほど猫を堪能し、店を出てご飯へ。ゆあちゃんがパンケーキを食べたいと言うので、人気のパンケーキ屋へ向かう。


 店内は甘い香りが漂い、ふわっとしたパンケーキを二人でつつく。

少し重いけど美味い。


 ゆあちゃんは食べながらも猫の話ばかりで、本当に猫が好きなんだなと微笑ましく聞き入った。


「猫欲しい?」と聞くと、首を振る。

「いえ…猫は大丈夫です」

「なんで?俺も猫好きだしさ。どうかなって思ってたんだけど」

「…私にかまってくれなくなったら…悲しいので」


 その言葉が可愛くて、思わず頭を撫でた。彼女が小さく笑うと、疲れが吹き飛ぶような気分になる。


 家に帰り、掃除や洗濯物を片付け、夜ご飯を作ろうかとキッチンに立つと、「今日は私が作ります。猫カフェに連れて行ってくれたお礼です」とゆあちゃんが言ってきた。


 彼女の料理はどれも美味しく、作るたびに腕が上がってる。

しかも俺好みに味を調整してくれるから、毎回楽しみだ。


「お言葉に甘えて」とソファに座り、目を閉じると、またあの夢のような感覚が襲ってくる。

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