第3話 真沼盈、〈ぬめり屋〉での会合

 大照律公団のイベントが五月半ばにある。これを足掛かりに、破壊師としての宣伝活動を行おうと盈は企図した。ホノイミ湾から渡って来る霊を迎え入れて、お返しする儀というのが行われる。そこらじゅうの霊道で、呪文が唱えられることとなる。霊道の全国整備という一大事業は七十年くらい前に終わって、しかし現代異相体形成学からすると、かつて霊とされてきたものやそれを扱った事業は、誤りや業者間の癒着も多く、無駄金が浪費された失策という見方が強い。それでも大規模な異相産業が稼働する契機となり、八海企業が本格的に形成される端緒となった歴史的意義は大きい。


 大学の時の知り合いと集まり、話をすることにした。最も頼りになるのは盈の親戚である真沼有世ありよと、千種ちぐさいさみの二人だった。有世は複数ある真沼家の支流の中で、まだ異相体駆除で食っている家の一つ〈典厩てんきゅう家〉の出身だ。先祖は武士で、戦場いくさばでの色々な伝説が残っているが、この家の人たちは皆大酒飲みなので、誇張されているに違いないと真沼一族の人々は確信している。


 千種は謎が多く、入学当時の盈が出会った時は、痩せた背の高い神経質そうな青年だったが、ある日構内に赤い着物を着た狐面の小柄な怪人が出没し、千種諫を名乗った。この年寄り臭い口調で話す謎の人物は、千種の妹か、何らかの関係者と思われたが、変異した本人だと盛んに主張し、元の背の高いほうの千種諫は二度と現れなかった。


 その他、天竺騎士団の一員水無瀬や、大照律公団司教令嬢である四月朔日、既に破壊師として実績を積んでいる西池などの面子が、ぬめり屋に集結した。ここは正式名称は神田飯店という中華料理屋で、テーブルも床も油でぬめっているのでそう呼ばれている。


「盈はもう破壊師として動いてんの?」と有世が聞いたので、この前、境犬を破壊した、と答える。


「ってことは人形ひとがたを使ったわけ。いや、ぬいぐるみか?」水無瀬が尋ねる。彼は西洋甲冑を身に纏っている。何かのイベント帰りなのではなく普段からそうだ。天竺県の実家が、騎士団の支部長か何かを代々輩出しているらしく、彼もそのコネで入団したと言っていた。「ドライフルーツ、バナナとかが触媒としてはいいらしいけどな。へえ、アプリコットグミ? グミって手もあったか。あー、ファランクスしてぇな。肉のあるやつを駆除してぇ」


「免許はもう持っておるんじゃろ? あの一夜漬けでも問題ないやつ。川渕の方だと五十人中三十人が落ちておるがな。公団も太陽説法とか言っとらんで、もっと教育に力を――」


 西池がノートパソコンを開き、この前買ったという呪いの映像を皆に見せる。それは、薄暗い海岸で、黒い服を着た長い髪の女性がこちらに背を向けて立っているものだった。三十秒ほどで映像は終了する。ネットオークション? と四月朔日が尋ねると、雑誌、と答える。この映像を武器として使えないか、と西池は考えているようだった。これを何度も繰り返し見ると、徐々に女性がこちらを振り向く。その顔を見たら死ぬという触れ込みだったが、四〇〇〇Cしか計測できなかった。ぼったくりじゃん、と水無瀬が無感情に言った――彼は兜を取らないので、食事はしない――増幅するにしても、反根源拡散考えるとアンプ繋いでフルテンでも一〇〇〇〇いくかどうか――しかも初見の者が一人でもいると最初からやり直しだという話だ。一から素材を集めて自作したほうが早い。


 杏仁豆腐を注文したのだがなかなか来ず、代わりに人数分より二人前多いチンジャオロースが来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る