第2話 真沼盈、オオノ宅での活動

 各地区の掲示板に、異相体に関する問題を抱えた人々からの依頼が貼られている。そのうちの一枚を手に取った。


 盈は他の大多数の市民と同じく携帯電話を持っておらず、公衆電話からその番号にかけた。自分が異相体の破壊師であることを告げる。相手、ここではオオノさんとしておくが、その中年男性は本当に困っているんだよね、お願いできますか、と苦笑いしながら疲れた声で語った。


 オオノ家は玄関が二つあった。左の方から入ってください、向かって左ね、とオオノ氏から言われていたので、その通りにする。茶の間に通され、オオノ氏と謎の老婆を前に盈は詳しい話を聞き始める。出された飲み物は、湯呑に入った水道水らしき液体で、しかしかすかに甘かった。


 オオノ氏が言うには、風呂場に境犬が出るということで、特に夜中とか鳴き声がうるさくて眠れないとのことだ。老婆もしきりに頷いている。こちらの方はご母堂ですか、と聞くと、オオノ氏は困惑した顔で、こちらの方? と繰り返したので、いえ、続けてください、と促す。


 境犬は祖先が金銭トラブルを解決せずに他界したことが原因で発生するという俗説があるが、それは嘘で、無差別に発生している。一番効くのは熊のぬいぐるみとアプリコットグミで、それらはここに来る前に既に買っていた。


 真沼さんは、予知とか予言といった力をお持ちなんですか。熊のぬいぐるみの周囲に笹の葉を配置する盈に対して、オオノ氏はそう聞いた。厳密には違うがそうだ。旧式のインスタントカメラで浴室に置いたぬいぐるみを撮影し、壁や天井も写す。オオノ氏にアプリコットグミを食べてもらい、自分でもそうする。境犬はたぶんもう出ないと思います。盈は言った。一般的な破壊法ではないですが。自分が宿す異相体は、沸騰した現実を収束・誘導することを完了しました、もし何かありましたら、こちらにお電話を。盈は実家が出しているパンフレットを渡した。真沼家は今やいくつもの系統に分かれているが、この家は大照律公団傘下でピジン葬専門の葬儀屋をやっている。パンフレットの表紙には、微笑む喪服姿の人たちと、顔が歪んでいる白装束の人たち、認可を受けた混錬症患者の処置体などが並んでいる。


 オオノ氏は封筒に入った紙幣を渡した。盈はその場で確認することもなく、一礼して立ち去る。謎の老婆は既にいない。右側の玄関から出る。封筒の中身は扶桑えんではなく、西バ通貨の紙幣だった。数日後、経過を見ようと再びオオノ宅を訪れると、全ての窓やドアが、外側から板で塞がれている。今まさに左側の玄関に板を打ち付けているオオノ氏がいたので挨拶すると、ああ、真沼さん、この前はどうも、助かりました、と微笑む。でもあれから、色々大変だったんですよ。外に出ないようにしないといけませんから。出たら、一大事なのでね。盈は一礼してその場を後にした。

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