第4話 真沼盈、千種諫への依頼

 盈はあまり役に立ったとは言えないぬめり屋の会合から三日後、千種諫と再び会った。場所は南北線の薊駅から行ける地下街で、多数の洗濯機が稼働している。これは首府の方で開発が進んでいる対異相体処置の一つで、それを人づてに聞いた大学のサークルとか非営利団体とかカルト宗教がこうして真似することが多いのだそうだ。往々にして予期せぬ悲惨な末路を迎えることも多い、だが、何らかの末路を迎えることが重要で、そのためなら何ダースの人が死んだり、異相化したりしても全く問題ないのであった。


 洗濯機群の隣には屋台が並んでいる。ラーメン、焼きそば、ホットドッグ、チョコバナナ、わたあめ、ケバブ、金物、あるいは薬や呪術の素材であるミイラなどだ。


「で、盈よ。お主は大照祭にて何やら広報活動を行いたいということじゃったな。儂ではなく(四月朔日)琥珀に頼むべきではないのか?」


 四月朔日の親父さんはケチだから対価を要求する、それを支払うことはやぶさかではないが、人体実験とかさせられる恐れがある。運が良ければもっとパワフルな体に変異できるかも知れないけど、同級生三人がまとめて一人にされたことがあるので、乗り気はしない、と盈は説明した。洗濯機の音がうるさいので、大声を出す必要があった。


「なるほど、それでインディーズというかアングラ方面から攻めるというわけじゃな?」


 八海という巨大企業・エスタブリッシュメントがあれば無論それに相対する文化もある。今の姿に変容した後の千種は妙にそちら方面の伝手が多く、在学中も色々と世話になっていた。大照律公団のイベントでは同時に多数の参加者が動く。天竺騎士団も呪術連も、破壊師組合も、それより規模の小さい無数の団体・個人もだ。そして、合同浄化とか合同葬儀とかも色々と行われる。どこかの討伐イベントで人目を引く活躍ができれば、今後の顧客を確保できるかも知れないと盈は考えていた。 


「よかろう、儂が今推しとる勢力に紹介状を書いておく。新鋭の探索者チームじゃな。配信活動やっとるんで、宣伝にはちょうど良かろう」


 彼らが〈異界〉と呼ぶ異常な空間があり、配信者はそこを撮影し、外に戻ったのちネットに上げている。玉蟲県内では無線通信というのは難しい。異相体には通信妨害効果があるからだ。それでも、今の閃波技術が開発されてからは、不鮮明ながらどうにかやりとりはできなくはないが、多くの従事者は盈のように携帯電話を持たない。記録用として手書きのメモが好まれ、未だにビデオカメラやテープレコーダーがこの県ではよく売れる。ただ、ノイズが入ったり中断してもいいからと、無理矢理無線中継する趣味の者もいて、〈砂嵐派〉と呼ばれている。彼らにはリアルタイム配信ができるという強みがある。


 後日、以下のようなハガキが盈のアパートへ届いた。切手は貼られておらず、直接投函されたものと思われる。




【泰輪十五年 五月十六日(土) 大狩猟会開催! 場所 深堀駅前交差点 

 参加自由! 臨死獣討伐作戦(生死損傷自己責任)!

 禍因性閃波照射装置 無料で撃てます!

 十時~十八時まで 服装自由、撮影OK! 主催:小鐘井町内会】

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