11 楓図:【ヒカル】
「俺は、子供の頃から絵を描くのが得意だった。たくさん賞を取ったよ。母が美術が好きで、子供の頃から美術館によく行っていた。もしかしたら、同性を好きになるきっかけは、昔美術館でカラヴァッジョの『洗礼者ヨハネ』を見た時かもしれない。同じテーマのがいくつかあるけど、そのヨハネに恋した記憶がある。今でもその絵を印刷して机の前に貼ってあるから、後で見て。カラヴァッジョが描く男性の絵は美しい。『ナルキッソス』も同じく。カラヴァッジョ自身も、男性に対しての美しさを俺と同じように見出していたと勝手に思った。でも、俺にはこんな風に描けないって自覚した。
ほかにもいろいろな画家を見た。逆に嫌いな画家はいない。その後、全然作風は違うけれどエゴン・シーレの描く裸の自画像にもかなり影響を受けた。彼の作品を見て、自分も画家になろうと決意をしたんだ。俺は油絵も、水彩も水墨も何でも描くようになった。
母が病気になって、家にいるのが嫌な時期……中学を卒業するころだった。哀れに思ったのか、中学の美術の先生が紹介してくれたとあるカフェに、俺の絵を置くことになった。それはいわゆるそういう人たちがよく来るカフェだった。もちろん一般のノーマルな客もたくさんいたよ。立地的なものだと思う。まぁ……その美術の先生には、俺がどういう性的趣向かを見抜かれていたわけで……。そんなの生徒に紹介するのもどうかと思うけど、本当に普通の可愛いカフェだったから、俺もお茶をしに行ったりしてたよ。そこでは店長の厚意でスケッチを許された。そしたら、俺の絵を買いたいという人が何人か現れた。びっくりしたよ! 今思えば、俺の絵は良い作品だから、買いたい人がいるのも当然だよ。陸斗ならわかるだろ? 笑うなよ。この歳でこんな絵を描けるなんて、かっこいいでしょ! ってね。
その中の二人は、俺が店にいて俺の顔を見て作品を買ったようなものだ。一人は年上のお姉さんで、三十歳くらいの仕事をバリバリやっているタイプだ。仕事ができる反面イケメン好きで、稼ぎをイケメンに貢ぎたくて仕方がない人だった。もう一人は男の人で、同性が良いという人だった。もともと美術に興味のある人たちだから、個人的に一緒に美術館へ行くようになった。もちろん、それぞれ別々に。これ、パパ活? ママ活? 最初は違うと思ってたんだよ、ほんとに。ある時、誘われて……そういうことになった。でも女性とは一回でやめた。俺が本当は同性がいいことをきちんと話したら、彼女は快く応援までしてくれた。
男性の方は少し続けていた。会うたびにそういうことをした。その人はその時々で『どっちをする』っていうのが違った。だから俺は、上も下もどっちも経験してるんだ。された時に負担が大きいことも知ってる。
その時にお金ではなく、物をくれた。色数が豊富で有名なメーカーの絵の具や、良いスケッチブック、キャンバスなど、豪華な画材をもらった。単純に画材は嬉しかった。画材屋について行って何でも買ってくれた。もちろん申し訳なかったけど、その代わりに俺と一緒にいてほしい、もっと良い絵を描いてほしいと言われたから、俺は単純に『これでいいんだ』と思って、ずっと描き続けた。相手が喜んでるのは俺も嬉しかったし、俺も相手に愛情がなかったわけではない。実はその相手の両方とも『この子は他にもそういう人が何人もいるだろう』って思っていたそうだよ。
高校生になって母が亡くなった。そのころカフェが代替わりし、新しい店長と敬親さんが知り合いだった。飾ってある絵が誰の作品かという話から、どうやらパトロンの男とそういうことになっているらしいとバレてしまった。カフェを通じて敬親さんに呼び出されたとき、俺はまた同じような人が出てきたのかと思ったら、全然違った! 初対面でめちゃくちゃ怒られたよ。俺の年齢、人としてのことや付き合い方についても。この店を紹介した先生も、まさか俺がそんなことになっていたとは思っていなくて、心底落胆していた。そこから、敬親さんはアンリと一緒に俺の面倒を見てくれるようになり、俺はあのユニットに入った。そうしたら、それが楽しくてさ!
そんなことがあった後、母が行きたがって叶わなかった京都旅行に父と行った。母が見せたがっていたある寺の屏風を見に行ったんだ。桃山時代に絵師の親子が一門として描き、後を継がせようとした息子が亡くなったという。その息子が亡くなった後に父親が描いた楓の図を見て、俺は泣いてしまった。悲しみと力強さが圧倒的だった。
絵は魂で描く。心の動きで描く。もちろん誰かに依頼されて描くんだけど、そこに自分の思いが乗る。この絵師の愛する息子の死もそうだ。これを母は見せたかったのかと思ったら、涙が止まらなかった。それ以来、日本画の絵の具である岩絵の具にも興味が出て、時々描いている。
父親とは仲が良いよ。陸斗を紹介したらきっと喜ぶと思うよ。
あ、ごめん。俺ばっかり一気にしゃべってる。初めて人に自分の話をしたよ。……おい、何で泣いてんだよ。パパ活の黒歴史を打ち明けただけだぞ。……ったく。陸斗、泣いてていいからこっち向いて。顔見せてよ……キスするよ? ……キスは二回目だな。――わっ、待って! 抱きつくな! ……もう一度、ちゃんとキスさせて。――したいの? ……わかったよ。じゃあ、怖かったり嫌になったらちゃんと言って。準備が不完全だからどこまでできるかわからないけど。細かいことは今度教えるから……。陸斗、すごく好きだよ。……いい? 抱かせて。本当はずっと触れたかったんだ」
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