第4話 仲間たち
「やっぱり持つべきものは幼馴染だな」
さらに二週間が経ってみると、高校時代の陸上部の同級生が五人ほど主催チームに入ってくれることになった。
窓を開けると秋の気配が僅かに風に混ざり、暑さが和らいでいた。
「SNSは頼りにならないってことだよ」
涼ちゃんは笑ってあたしの肩を叩く。あたしがfacebookでティラノサウルスレースの協力者募集に関して投稿を行なったが、やはり参加したいという人はいても主催協力までしたいと言う人は現れなかった。
結局涼ちゃんが一人一人直接連絡して相談し、寝技的に丸め込んで五人を確保した。
「家永さんの他に保育園のママ友が三人くらい手伝ってくれるっていうし、なんとかなるものね」
保育園のメンバーはあたしの功績だ。家永ママに相談して、手伝ってくれそうな家族を探すのに協力してくれたのだ。
何かを成し遂げようとするには、強い意志が必要だ。涼ちゃんは昔から意志が強い。一度決めたことにはまっしぐらで、あたしにはない特性である。
疲れることはあるけれども、涼ちゃんと二人でいたら、あたしだけで生きていたら決して見られない世界まで連れて行ってくれる気がする。
今日はティラノサウルスレースの実行委員会を結成し、初めてのミーティングが行われる。駅前にある公営のミーティングルームに集合の予定だ。メンバーの半分が子持ちなので、ちゃんと話し合えるか不安である。
でもなんとかなるよねって、思えるくらいには吹っ切れてきた。面白いことをしたい大人が十人以上集まるんだから、ワクワクする気持ちの方が上回ってきたのだ。
「綾ー、久しぶり! 楓ちゃんの出産以来じゃない?」
集合場所であたしを見るなり、美穂が言った。高校時代、一緒に百メートルを走った仲間だ。
「楓ちゃんそんなに大きくなったの?」
美穂はあたしの横にいる楓をみるなり言う。あたしも久しぶりの再会が嬉しくなって、鼓動が高鳴った。
「家永さん! こっちこっち」
家永さんと保育園のママ友家族が見えたので、大きく手を振る。楓と同い年の子供を連れており、子供達と目が合うなり「かえちゃんのママ!」と言われるので手を振る。
涼ちゃんは男子の旧友がわらわらと集まってきたせいか、同窓会みたいな感じで盛り上がっている。
予約の時間が迫ってきたので、利用申込書に必要事項をそれぞれ書き込んでもらって提出し、ミーティングルームになだれ込んだ。
「本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます。実行委員長の工藤です」
涼ちゃんがそう言うと、「堅い堅い」「らしくねー」「肩の力抜けって」と高校の同級生男子たちから野次が飛ぶ。
「うるせー」
涼ちゃんは笑ってのけて、「やるからには徹底的にバカやろうぜ」と宣言した。
副委員長、会計、広報、当日の受付、レース進行、と係を相談しながら割り振っていく。適材適所で揉めることなく自然と役割が決まっていき、みんな肝心の企画の話をしたくてたまらない様子だった。
「どこでやるのが一番楽しいと思う?」
「やっぱり青空の下、緑の芝生の上を走るのがいいよね」
「東京で借りられそうな公園ってどこ?」
「上野公園?」
「日比谷公園?」
それぞれアイデアを出していく。
「皇居はどうだろう?」
涼ちゃんがポツリと言うと、全員が口から息を吹き出した。
「想像しただけで笑える」
「不謹慎すぎる」
「許可取れねえだろ」
高校の同級生男子たちが口々に言う。
「いや待て、北の丸公園はイベント申請できそう」
スマホを片手に涼ちゃんが言う。調べるのが早い。
「いやいやいや」
「ちょっと待て」
慌てて外野が制止するにも、涼ちゃんは止まらない。
「よし、北の丸公園でやろう」
我が道を突き進もうとする涼ちゃんを止めるのも、いつだってあたしの役目だ。
「ダメだよ涼ちゃん。北の丸公園の団体利用の取り扱いについてのページ、よく確認して。楽器、拡声器等の大きな音が出る物を使用しないこと。仮設物、机、椅子等、現状ないものを設置しないことって書いてあるわよ。大騒ぎしたいなら無理だよ」
あたしがピシャリと言うと、「強行突破とかできない?」と涼ちゃんが見つめ返してくる。
「下手したら警察沙汰だよ。ハメ外すにしてもルールは守らなきゃ。みんないい大人なんだから」
「そうだそうだ。綾ちゃんの言う通りだ」
高校の同級生の城田くんが声を重ねる。
「運営スタッフの人数もそんな多いわけじゃないから、できる範囲で楽しくやらない?」
美穂が続けて提案する。ミーティングルームの後ろの方では話に飽きた子供たちが鬼ごっこを始めて騒がしい。
話し合いの結果、あたしたちが住んでいる町の小学校の体育館を借りようということになった。家永さんが小学校のPTA会長をしているとのことで、融通が利く可能性に頼ることになった。やはり雨の日でも予定通り出来る方が良いという意見の方が支持を集めた。
開催時期は年が明けてから、暑くもなく寒くもない丁度良い季節の五月ごろを狙うことになった。一つ一つ大事な話を潰していき、みるみるうちに形になったティラノサウルスレースの企画にあたしは嬉しくなっていく。
「体育館か……」
青空の下、緑の芝生の上で全力疾走するビビッドカラーのティラノサウルスに期待していた涼ちゃんは肩を落としていた。
家に帰ると、思いの外テンションが下がっており、むしろ落ち込んでいる涼ちゃんにかける言葉はなかなか見つからなかった。
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