第5話 プレゼント

 年が明けてあたしたちの企画したティラノサウルスレースの準備が整うと、いよいよネットにレース参加者の募集要項を公開した。会場のキャパシティもあるので、成獣メス部門、成獣オス部門、幼獣部門でそれぞれ先着四十頭という制限を設けて募集を始めた。


 合計で百二十人も集まるかはわからなかったけども、他の会場では参加者が百を越えるところがザラであると情報を受けたので、むしろ余裕を持った定員である。


 受付の事務処理の担当はあたしで、専用フォームから送られてきたメールに手動で返信を行っている。


「応募状況はどう?」

 楓を寝かしつけると、涼ちゃんが毎晩あたしに聞いてくる。今日は何人申し込みがあったよと報告すると、涼ちゃんは嬉しそうに笑った。少なかったり多かったり、その日によって申し込み人数は増減し、ある程度のピークを迎えて徐々に人数が減っていった。


「合計で百人ちょっとってとこかな。まだ少し余裕はあるけど」

 申し込み締め切りが近くなって、あたしがそう言うと、涼ちゃんは「上出来」と満足気に言う。

 とある晩の楓を寝かしつける前のことだった。涼ちゃんが大きなダンボールを抱えてリビングに入ってくる。


「ちょっと早いけど、プレゼント」

 涼ちゃんが微笑みながら言う。

「え? 何?」

 何が早いのかわからない。

「開けてみて」

 ダンボールのテープを剥がし開けてみる。やたら大きいのに中身は軽い。

「なになに? かえちゃんのおもちゃ?」

 楓が走って寄ってくる。

 あたしはそれが何かを認識できない。


「あ! かえちゃんの大好きな赤だ! 良いなあ、かえちゃんも欲しい!」

「かえちゃんのもあるよ。同じ赤だよ」

 それは見事に輝く、赤いティラノサウルスの着ぐるみだった。


「これは?」

 あたしが言う。

「綾ちゃんのだよ。誕生日プレゼント」

 あたしの誕生日は来月だ。ちょっと早いにも程がある。

「どういうこと?」

「また綾ちゃんが全力で走る姿が見たいなあと思って。成獣メスの部で優勝をかっさらってください!」

 全身の力が抜けて、言葉が見つからない。


「あたしも走るの?」

「俺も走るよ。ほら、俺のは青!」 

 涼ちゃんがダンボールを漁って、青い着ぐるみを指さした。

「夫婦で優勝しようぜ」

「かえちゃんも優勝する!」

 なんとも馬鹿馬鹿しすぎて、もう笑うしかない。あたしは頭を抱えながら口角を上げて、「まじか」と呟いた。


「自分が走る余裕なんてないと思ってたけど」

「みんなで交代しながらやればいいんだよ。自分で走れなきゃ嘘だろ」

 涼ちゃんの本気の眼差しにはいつも弱い。


「綾ちゃんがガチで走る姿がまた見たいんだって!」

「ティラノで?」

 前に同じやりとりをした気がする。全身が脱力しながら、あたしはパソコンを立ち上げて、残りわずかな参加枠に家族で参加申し込み手続きをした。

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