本物のゴスロリ???
「おや、お目覚めになりましたか?」
その声は、落ち着いていて威厳を感じさせるものだった。麗はその人物に目を凝らし、そしてゆっくりと問いかけた。
「えっと、ここはどこですか? それに、私は……一体どうしてここに?」
「貴女こそ、何ですか?その服装……」
その人物は麗のゴスロリ衣装をじっと見つめた後、少しだけ驚きの表情を見せたが、すぐに冷静さを取り戻した。
「貴女の服装が非常に珍しいものですから、驚いたのです。私が尋ねるべきは、むしろ貴女の方でしょう」
その人物はゆっくりと歩み寄り、麗の前に立った。顔は整っていて、年齢不詳だが、どう見ても上流階級に属する人物のような威厳を放っていた。
「私はフィオナ・ダークウッド。インヴィア王国のアミシティア家の家系に連なる者です」
フィオナは麗に向かって軽く一礼した。麗はその一礼に驚き、思わず後ろに一歩退いた。
「アミシティア家……王国?」
「そうです。インヴィア王国は、この世界で最も栄えた王国の一つ。貴族社会の中でも、我が家はその名を馳せている。貴女、どこから来たのですか?」
麗は戸惑いながらも答える。
「えっと、私は日本から来ました」
「日本?」フィオナが少し首をかしげる。「それがどこにあるのか、私には分かりませんが、この世界の人ではないそうですね」
麗は驚き、再び自分の服装を確認した。「確かに、こんな服装、普通の人じゃないよね…」麗は、ゴスロリ衣装のレースやリボン、ふわりと広がるスカートを指で軽く触れながら、現実感を失いそうになった。
フィオナは麗の様子をじっと観察し、少し考え込んだ後にゆっくりと話し始めた。
「貴女が着ているその服、この世界で見かけることのない特別な衣装ですね」フィオナは冷静に続けた。「何ていうか、未来を見ているような、異質で不思議な装いです。しかし、その服装は一体、何を意味しているのか……」
麗は一瞬、言葉を失った。自分のゴスロリ衣装がこの異世界ではまるで未来から来たようなものとして受け止められていることに、少しばかり驚きと戸惑いを感じた。しかし、今はそのことに焦点を当てている場合ではなかった。
「それで、フィオナさん、私はどうしてこんなところに?」
フィオナは一瞬黙り込み、その後、麗の目をじっと見つめた。
「知らないよ。変な格好の人がそこで寝てたから起こしたの。それだけのことよ」フィオナは冷静に言った。
「それじゃ、私はただの偶然でこの世界に来たってこと?」麗は呆れたように問いかけた。
フィオナは少しだけ首を傾げ、「偶然かもしれないし、必然かもしれません」と答えた。続けて、「貴女のような服装がこの世界でどう扱われるか、私はまだ分かりませんが、一つはっきりしているのは、貴女が知らない世界から来たことは間違いないということです。貴女の服装、そして言葉……すべてがこの世界のものとは違う」
麗はその言葉に困惑し、少し間をおいてから、「じゃあ、私はどうすればいいんだろう……?」と呟いた。
フィオナはしばらく黙った後、真剣な表情で答えた。「暫くは、この世界での生活に慣れることが必要です。貴女がこの異世界でどのように生きるか、どう生き抜くか、それを学ぶことが第一の課題でしょう。ですが、そのためにはまず、貴女の服装や振る舞いが、この世界でどのように受け止められるのかを知ることが必要です」
麗はフィオナの言葉をじっと聞きながら、少しずつその意味を噛みしめていた。ゴスロリ衣装を着ていることが、どうやらこの世界では奇異なものとして見られているらしい。しかし、それは予想外のことではない。彼女の衣装は現代日本でこそ目立つことはないが、ここではまったく違う意味を持つらしい。
「え!?もしかしてお嬢様言葉を教えてくれるの!?」
フィオナは、麗の驚きの表情に気づき、少し不思議を浮かべながら答えた。
「お嬢様言葉?いや…貴方にはこの街の文化を学ぶために、まず基本的な挨拶を」
「凄い!本場のお嬢様言葉教えてくれるの!?『ですわー』とか『ごきげんよう』とか使うのかな!」
フィオナは興奮する麗の顔をじっと見つめてから、静かに言った。「いや、この街の挨拶を教えるのであって、貴族の言葉とかは…」
「ジェンナお嬢様ー!」
その時、麗の後ろから突然声がかかった。振り返ると、金髪で華やかな装いをした女性が歩み寄ってきた。彼女は麗の姿を見て、一瞬驚いた表情を浮かべると、すぐに礼儀正しく頭を下げた。
「ジェンナお嬢様、どこ行ってたのですか!?探しましたよ!」
麗は少し驚きながらも、女性の言葉に反応する。「え、私が…お嬢様?ジェンナ?」
「当たり前ですよ!貴女はアルバート家のジェンナ・プラバート公爵です!」その女性はまるで当然のことのように言った。麗はその言葉にさらに混乱し、思わず後ろを振り返った。
「ジェンナ…? 私、そんな名前知らないし…!」
「ジェンナお嬢様、まさか頭打ったのですか?」女性は心配そうに眉をひそめ、フィオナを見ると驚いた様子で言った。
「フィオナ伯爵!?なぜ伯爵がここに!?」
フィオナは穏やかな表情を保ちながら、女性――ジェンナの従者と思われる人物に向かって静かに答えた。
「私がここにいる理由は、少々予期しない出来事があったからです。彼女は……少し頭を地面に打ったようです」
フィオナは冷静に続けて言ったが、その表情にはわずかな緊張が漂っていた。麗はその言葉にますます混乱し、ますます自分がどこにいるのか、何が起こったのか理解できなくなっていった。
「いや、私、ジェンナって名前じゃないし、そもそも貴族でもないし、アルバート家にも関係ないんだってば!どうしてこんなことに……」
ジェンナの従者らしき女性は、麗の反応に困惑しながらも、少し落ち着いて話しかけてきた。「お嬢様、あまりご無理をなさらないで。私たちはずっと貴女をお待ちしておりました。急に倒れたので心配でしたが、すぐにお目覚めになられて本当に良かった」
「待って、待って!どういうこと!?」麗は混乱した様子で再度問いかけた。「私は本当にジェンナ・プラバートじゃないし、ただのコスプレイヤーだし!」
フィオナは少し静かに考え込み、それからゆっくりと口を開いた。「貴女が言う『コスプレイヤー』とは、何を言っているのか、私には理解できませんが、貴女は『ジェンナ』という名前です」フィオナの言葉には、どこか諦めのようなものが込められていた。
麗はその言葉に耳を傾けると同時に、自分がいかに混乱しているかを感じていた。まさか異世界に転生して、しかも知らない名前を与えられるとは。彼女はしばらく沈黙した後、再び声を絞り出す。
「ジェンナ…プラバート? それ、どういうこと?」
フィオナはその質問に答える前に、少しだけ間をおいてから、麗に向き直った。
「ジェンナ・プラバート公爵家は、ここインヴィア王国でも非常に名門の一つです。貴女はその家に誕生した。もちろん、私がそれを証明することはできませんが…この街の人々には、貴女がその家の令嬢として認識されています」フィオナの声は冷静だったが、少しだけ重く響いた。
麗はその言葉に呆然とし、頭の中で整理できないまま、立ち尽くしていた。まさか、自分が知らない間に別の人間として生きる羽目になるなんて、考えてもみなかった。
「てかジェンナお嬢様!?何ですかその格好は!?はしたない!」
「え!いやこれ、コ・ス・プ・レ!」麗の混乱が続く中、フィオナは冷静に続けた。
「貴女の服装は、非常に目を引くものです。ですが、その立場では、少々不格好かもしれません。これは、貴族としての品位に関わります」
ジェンナの従者とおぼしき女性も、少し眉をひそめながら麗を見つめている。その視線が、麗をますます不安にさせた。
「ですから、ジェンナお嬢様。このような格好で出歩くのは、他の貴族の目にどう映るか、わかっておりますか?」女性は少し厳しい口調で続けた。
麗はその言葉に思わず肩をすくめた。「私、ジェンナじゃないってば!これはただのコスプレだし、どうしてこんな格好で注目されてるのかわからない!」
フィオナは静かに麗を見守りながら、言葉を選んで答えた。「ジェンナ、お前の記憶に何かが欠けているのかもしれませんが、この服装が貴女に与えられた役割であり、現在の貴女の存在そのものです。今、貴女はこの世界でジェンナ・プラバートとして生きることになった。それが現実です」
「現実って……」麗は呆然としたまま言葉をつぶやいた。「じゃあ、私は本当にジェンナ・プラバートっていう令嬢になっちゃったってこと?」
フィオナは一度頷き、少し間をおいてから冷静に答えた。「その通りです。貴女が記憶喪失になったかは私にはわかりませんが、ここではジェンナとして、貴族として振る舞わなければならないのです」
「まさか……運命? それとも偶然?」麗は呆然とつぶやいた。
「それについては私もわかりません。しかし、貴女がジェンナとして過ごすのならば、この街での生活やその役割にふさわしい教育を受ける必要があります」フィオナは静かに語った。「まずは、この世界の基本的な礼儀やマナー、そして貴族としての振る舞いを学ぶことが重要です」
麗はその言葉を聞いて、少しだけ心を落ち着けた。異世界に転生し、まさか自分が知らない名家の一員になっていたことに、信じがたい気持ちを抱えながらも、何かを学ばなければならないという現実を受け入れ始めていた。
「でも、どうして私がゴスロリの衣装でこの世界に?」麗は再びその服に手を触れながら尋ねた。
「その衣装が、この世界において何を意味するのか、私は正確にはわかりませんが、貴女がそれを着ていることで何か特別な力を持っているか、またはそれが何かの暗示である可能性も考えられます」フィオナはゆっくりと言った。「その衣装は非常に目立ちますし、貴女の姿勢や言葉遣いに関しても、他の貴族たちにどのように受け入れられるかを考えなければなりません」
麗はその言葉を反芻しながら、ゴスロリ衣装が自分にとってどうしてこんなにも大きな意味を持つことになったのか、全く理解できなかった。それでも、今はこの異世界でどう生きていくかを学ばなければならないという現実が迫っていた。
「わかりました。とりあえず、今は貴族として振る舞う方法を学べばいいんですね?」
フィオナは穏やかな表情を浮かべて頷いた。「その通りです、ジェンナ。まずは基本的なことから始めましょう。言葉遣いや姿勢、そしてこの街でどう振る舞うかを学ぶことが、貴女の新しい生活の第一歩です」
麗は深呼吸し、少し覚悟を決めた。「わかりました、フィオナさん!頑張ってみます!」
その言葉に、フィオナは静かに微笑んだ。「良い返事です。その前に、その召使いが心配してるようですから、彼女にもきちんと挨拶しておくべきですわ」フィオナは麗を見つめて言った。麗は、ようやく少し落ち着いてきた心持ちで振り返り、女性――ジェンナの従者と思われる人物に目を向けた。
「えっと、私、ジェンナじゃないんだけど……すみませんでした」麗は困惑した顔をして挨拶し、気を使って頭を少し下げた。従者の女性はそれを見て、驚いた表情を隠しきれないまま、ぎこちなく礼を返した。
「まさか、お嬢様がそんな……本当に、急にお目覚めになられて、どうしたらよいのか……」女性は、麗の姿勢や言葉遣いに戸惑っている様子だったが、やがて口を開いた。「でも、お嬢様が元気になられたのなら、それでよかったです!」
麗はその言葉を受け、まだ混乱しているものの、フィオナの指導に従って一歩一歩、異世界での新たな生活を始めることにした。
ロリータ・コスプレイヤー!異世界でゴスロリ令嬢として貴族生活を始めましたわ! 八戸三春 @YatoMiharu
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