第62話 隠れた友情
黒焔路というおっさんとの戦いからしばらく経ち、夏休みに入った。
美雪お姉さんは、まだ本調子ではないようだけど、仕事には復帰していた。
美雪お姉さんは僕の右目を見る度に申し訳なさそうな顔をしている。『気にしなくていい』と伝えた。それでも申し訳なさそうな顔をする。
僕等はいつものようにヴェールさんのホストクラブに入り浸りながら夏休みの宿題をやっている。
想夜
「うぅん……。どうしたら、美雪お姉さんが僕の右目の事を気にしないようになるのかな? 右目を失ったのは美雪お姉さんの所為じゃないんだから、気にしないでほしいんだけど……」
光二
「いやー、それは無理な相談じゃねーかー? 美雪さんは想夜の事を大切にしているのは見てれば分かるからなー。自分の大事にしている男の子が、自分の為に戦って、右目を失いましたってのは申し訳ない気持ちでいっぱいになっちまうだろーよー」
猿太郎
「せやねぇ。想夜が逆の立場なら、気にしちゃうんやない?」
光二
「おー? 猿太郎ー。そこの公式間違ってるぞー」
猿太郎
「マジかいなぁっ!?」
想夜
「逆の立場ならか……」
美雪お姉さんが、僕を護る為に戦って、消えない傷を負ったら……。
想夜
「その時は、責任を取る。僕が美雪お姉さんを幸せにする」
猿太郎
「ふぁっ!?」
光二
「いきなり結婚発言かよっ!?」
猿太郎
「……俺以外の人と……結婚する気なんか? 想夜……」
ヴェール
「何ぃっ!? 想夜が結婚するだとぉっ!?」
『バアアァァン』
床をぶち壊してヴェールさんが出てきたっ!? なんで床下にいるのっ!?
光二
「ヴェールさんっ!? な、なんで床下にいるんだよっ!?」
ヴェール
「地下倉庫に管理している酒の在庫をチェックしていたんだよ。それより結婚するってどう言う事だっ!? 叔父さんはっ!! 許さんぞぉっ!?」
光二
「なんか変なスイッチ入っちまったっ!?」
猿太郎
「……俺以外の人と……結婚する気なんか? 想夜……」
光二
「猿太郎っ!! お前はいつまでショック受けているんだよっ!? あとショックを受け過ぎだろうがっ!!」
猿太郎
「ゔぅ……ゔぅ……」
光二
「が、ガチ泣きだとっ!?」
猿太郎
「ゔぅ……だってよっ!! 光二っ!! 想夜がぁっ!!」
ヴェール
「叔父さんは認めんぞおおぉぉっ!!」
タマオ
「ヴェールさん……。またお店の物を壊したの? ダメじゃん。そんな事をしたら……また吸っちゃうぞ」
ヴェール
「た、タマオくんっ!? ま、待ってくれっ!! いろいろと今はそれどころじゃないんだっ!! 想夜がどこの馬とも分からない奴にっ!!」
タマオ
「えっ!? 想夜くん結婚するのっ!? それはめでたいねっ!! お祝いしなきゃっ!!」
光二
「あぁっ!? もうっ!! めちゃくちゃだよっ!! タマオはどっから湧いて出てきたんだよっ!? くそっ!! 情報量多過ぎだろうがっ!! ツッコミ担当が俺だけだと捌き切れねぇっ!!」
想夜
「え? 光二は別にツッコミ担当じゃないよ」
光二
「え?」
想夜
「え?」
熊丸
「想夜様。そろそろ休憩しましょうか。どうぞ、お茶です」
想夜
「ありがとう、熊丸」
ヴェール
「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?!?」
タマオさんに奥の部屋まで引きずられて行くヴェールさんを見ながら、熊丸が渡してくれたお茶を受け取る。
光二
「え? 俺、ツッコミ担当じゃねぇの? え?」
想夜
「それにしても、美雪お姉さん……どうしたらいいのかな……」
光二
「まー、そういう事はどうにもならねーよ」
想夜
「でも美雪お姉さんは何も悪くないよ」
光二
「ああ、そうだな。お前から見たらそうだろうな……。でもな、美雪さんからしたらたぶん違う……」
想夜
「……え?」
光二
「美雪さんは、お前の事を誰よりも、何よりも護りたかった……。それなのにお前を護れず、怪我をさせ、右目を失う結果になっちまった……。その事に罪悪感を感じているんだろうな……」
想夜
「……」
光二
「一度植え付けられた罪悪感ってのは、そう簡単には消えないもんだ……。こればっかりは今すぐにどうにかできるもんじゃねぇんだ……」
想夜
「……」
光二
「まー、いつも通りそばにいてやれよー。いつも通りに笑って、一緒にいてやれよー。そんで支えてやれよー。それはお前にしかできない事だろうからなー」
想夜
「うん……」
光二
「……さて、想夜……。お前は美雪さんのところに早く帰ってやれよ……」
想夜
「分かった。じゃ、また明日っ!! 帰るよ熊丸」
熊丸
「わかりました。それでは失礼します」
僕と熊丸はヴェールさんのホストクラブから出て家に帰った。
ー光二目線ー
光二
「……」
猿太郎
「……『一度植え付けられた罪悪感ってのは、そう簡単には消えないもんだ』か……」
光二
「猿太郎……」
猿太郎
「俺達もガキの頃に通り魔に襲われて、想夜1人に押し付けちまう事になった時……同じように感じたもんな……」
光二
「エセ関西弁がとれてるぞ」
猿太郎
「いいんだよ。今は想夜はいないから」
俺達は通り魔に襲われて、何もできなかった……。
何もできない自分自身が悔しくて、悲しくて、憎たらしくて……。
そして想夜に護ってもらった事、その所為で想夜が傷付いてしまった事、死にかけてしまった事にすごい申し訳ない気持ちがいっぱいだった。
修業して、能力を会得して、強くなって、想夜と同じくらい強くなって、『もう、想夜1人に重荷を背負わせない』、『一緒に戦える』って思えるようになったから、心の整理がついたけどな。
猿太郎
「光二。お前さ、語尾を伸ばすように喋るのは、お前なりに想夜に安心感を与える為だろ? 自分がいるから心配するなって想夜に思わせる為だろ?」
光二
「そう言うお前だってそうだろ? 普段のエセ関西弁は、想夜に心配させない為のモノだろ?」
猿太郎
「おうよ。想夜には、いつも笑っていてほしいからな」
光二
「猿太郎。これからも想夜を支えていこうな」
猿太郎
「おうよ」
ー光二目線終了ー
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