第63話 動き出す歯車

ー美雪目線ー


 黒焔路との戦いから10日経った……。私の体はまだ本調子ではないが、動いて歩き回れるくらいには体力は回復した……。


 今はレンチ様に買い物を頼まれて、コンビニに歩いて向かっている。


 レンチ様は最近、コンビニで販売されているコロッケが安くて、おいしいらしく晩酌用に買ってきてほしいと頼まれたのだ。


美雪

「……」


 私は全力を出して黒焔路と戦った……。


 『白刀白蛇』の力を使って、無理矢理限界を超えて『真名解放』を使った……。


 それでも……私の力は、黒焔路の命を刈り取るには足りなかった……。


 それどころかこの世で1番護りたかったはずのぼっちゃまを危険に晒してしまい、右目を失わせてしまった……。


 私自身が弱い事が……悔しくて、情けなくて、申し訳なくて……。


 ぼっちゃまを傷付けてしまい、右目を失わせてしまった事が……申し訳なくて、悲しくて……。


美雪

「……私は……ぼっちゃまのそばに……いる資格はあるのだろうか……」


 ついそう呟いてしまった……。本来、命をかけて護らないとならないぼっちゃまを傷付けてしまった私にぼっちゃまのそばにいていいのだろうか……。


自遊

「……誰の事かは知らないが……仲間殺しをした貴女に誰かのそばにいる資格なんてない……」


美雪

「っ!?」


 懐かしい声が聞こえ、振り向くとそこには栗色の髪にアメジスト色の瞳をした青年と銀色の髪に浴衣姿の男性がいたっ!?


美雪

「っ!?」


 『国裏守護団』に所属していた時の同期『鳥宮 自遊』と元上司の『犬川 落葉』の2人が立っていたっ!?


美雪

「自遊っ!? 犬川隊長っ!?」


自遊

「……気安く僕の名前を呼ばないでほしい……。仲間殺しをした貴女なんかに……呼ばれたくない……」


落葉

「おいおい……。話し掛けたのは、君だろう。それに、元同期だろう。そんな言い方するもんじゃない……」


自遊

「……」


 自遊は私に対して宿敵を見るかように睨む。そしてそれを犬川隊長が軽く叱る。


落葉

「久しぶりだね、美雪ちゃん。元気にしてたかい?」


美雪

「……まぁ、それなりに……」


落葉

「そうかい……」


自遊

「……」


美雪

「今の私に……なんの御用でしょうか?」


落葉

「……まぁ、なんというかね……。10日前に……君、黒焔路と戦ったんじゃないかい?」


美雪

「……」


落葉

「その時……美雪ちゃん、『真名解放』をしただろう? 『真名解放』を扱える意味を……知らない君ではないだろう?」


美雪

「……」


落葉

「悪いんけどさ……大人しく僕等に捕まってくれないだうか?」


自遊

「抵抗してくれても構わないが、その時は我々はお前をある程度、痛めつけても構わないという指令を受けている。大人しく連行されろ」


美雪

「……」


 周囲から人の気配をまったく感じない。『国裏守護団』の技術部隊特製の人払いの結界を張ったのか。


落葉

「悪いね、美雪ちゃん。もしかしたら戦闘になるんじゃないかなって思って、あらかじめ技術部隊特製の人払い結界装置を作動させておいた」


美雪

「……」


 なるほど……最初から抵抗するなら力尽くで捕えるつもりだったのか……。


落葉

「さて、いくら君が強かろうと……さすがに『帝』の二つ名を持つ隊長2人を相手にするとは大変じゃないかい?」


美雪

「……『帝』の二つ名を持つ隊長2人? ああ、なるほど……私が組織を去ってから……自遊は隊長になり、『帝』の称号を与えられたのですか……」


自遊

「気安く僕の名前を呼ばないでほしいと言ったはずだ」


 自遊は私に拳銃を向ける。彼の目から殺意を感じる。


落葉

「おいおい。いきなり武器を向けるもんじゃない。こっちは美雪ちゃんを捕える事が目的なんだからさ……」


自遊

「落葉さんっ!! 貴方だって彼女に対して思うところはあるはずだっ!! 貴方の元副官だった彼女はっ!!」


落葉

「……まぁ、思うところがないわけじゃないけどね……。けど、彼女がそんな事をしたのは何かしら理由があると僕は思うんだよね……」


美雪

「……貴方達に捕らえられた後、私はどうなりますか?」


落葉

「……そうだね……。そこまではなんとも言えないね……。君は多くの人々救った実績があるけど、国裏守護団の仲間を殺したってのも事実だからね……」


美雪

「……」


落葉

「そんな君が『真名解放』を扱ったワケだから、どうなるか正直なところ僕でも分からないかな……。『真名解放』ができる人物ってのは、核兵器を所持している事に匹敵する場合があるからね……」


美雪

「……そうですか……。できる事なら……私はこの地を離れたくありません……」


自遊

「何を自分勝手な事をっ!! それは我々に抵抗するって事でいいのかっ!?」


落葉

「おいおい。そんな……」


想夜

「美雪お姉さんになんてものを向けているんだっ!!」


 私の背後から熊丸さんを頭に乗せたぼっちゃまが飛び出すっ!!


自遊

「っ!? なんだっ!? こ、子供っ!?」


落葉

「っ!? どこから現れたっ!?」


美雪

「っ!? ぼ、ぼっちゃまぁっ!?」


 ぼっちゃまはすごい速さで自遊に接近するっ!!


想夜

「ウラァッ!!」


自遊

「ぐべらっ!?」


 そして彼の顔面に飛び膝蹴りを叩き込むっ!? 自遊は2メートルほど吹き飛び倒れるっ!!


 ぼっちゃまは私の前に立つと彼等を睨むっ!!


想夜

「何があったか知らないけど、美雪お姉さんに手を出すなら許さないぞっ!!」


ー美雪目線終了ー

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