最終話 ずっとあなただけ

今、私は県立図書館の司書。流花は隣に併設されてる美術館の学芸員。お互い安月給同士でルームシェア。ううん、同棲って言った方が正しいね。


 流花と私の本当の出会いは小4。泥まみれで泣いていた私。助けてくれたあなた。

 この出会いは私だけが知っていればいい。そう思ってた。でも、今日はあなたの誕生日。どんな秘密も言いたくなる。汚れた私を白い指で洗ってくれた、私だけが知ってる流花。さらさらのいい匂いの長い黒髪の天使の輪。白くて細い指。紅い口唇。私はこんな綺麗な子がいることに驚いた。


 胸が苦しくなったのは、心臓病じゃなかったのね。今夜は寒いから温かい野菜スープと、シャンパングラスを傾けて、可愛い思い出話をしてみようかな。あとは、ディップとクラッカー。ミニグラタンと野菜スティックと白髭のおじさんのチキンを1人2個。ナゲットとテンダーは2人で分けて、二人で選んだパスタ皿にペペロンチーノを軽く盛る。もう今年で流花と暮らして5年経つのね。クリスマスか。クリスチャンではないけど、流花を待つ時間がそわそわする。毎年次の日2キロは太ってる。


 その日は夜に『大好き』とか、『愛してる』とか、言葉を繋いで、髪も指も絡ませて。ありったけの甘い言葉を含んだキスをして。お互いの同じシャンプーとボディーソープの香りを楽しんだり、部屋着を脱いで、ベッドまで待てなくて、ソファで彼女を抱く。流花の身体を味わって、流花をたっぷりの愉悦の海に突き落とす。理性なんて放り出して乱れる流花は綺麗で、これ以上もなく淫らだ。脚を開いて私を誘い、私は下肢の間に顔を埋める。甘い甘い流花の味。

 本能ってすごい。流花のされて好きなことは初めて抱き合ったときから何となく解っていた。お互いの髪が絡み合い、流れを作る。

 流花は脚を伸ばし、軽く痙攣したあと、果てた。

『シャンパンの海に浸かってるみたい。身体がシュワシュワ不思議な感じ。奏ちゃん。好き……。奏ちゃんとしかしたくない』

 情事の後の弛緩した微笑み。

『私も流花の「あの時」の顔も声も誰にもみせたくないし、聴かせたくない』

 かならず溶けたアイスみたいな熱を帯びた瞳で、私だけを見つめて、欲しがって、私の名前を叫ぶように呼ぶ流花の声も。


 本能に勝つ方程式は自制心を組み込む。大切なものを逃さない為の方程式には、時には勇気も必要。私はあのとき、小4の頃確かに、あなたのさらさらの黒髪の天使の輪に、触れたかった。あのときから私はきっと、


ずっと、あなたに恋をしていた。

ずっと、あなたが好きだった。





─────────【FIN】

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彼女は『好き』という方程式が解けない 華周夏 @kasyu_natu0802

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