第二話 紅の少女
――『花園』。正式名称、『陽海夜神社離宮(ひみよじんじゃりぐう)』。
戦巫女たちの最大にして唯一の拠点。花園は政府から魂魔及び戦巫女に関する全権限を委託されている。
所在は旧・八雲村の隣に位置する魂魔発生率ナンバーワンの街、神ケ原市にある初代戦巫女の人神・『那岐姫(なぎひめ)』が祀られた神社『陽海夜神社』の離れにある。敷地面積は10平方キロメートル弱と小さな街がまるほど入るくらいの広大さを誇る。
周囲には強力な結界が張り巡らされていて、一般人は立ち入ることはおろか認識することすらできない。戦巫女及びその関係者が二千人ほど居住しているが、そのすべてが女性で構成されている、まさに秘密の園『花園』なのだ。
また戦巫女唯一の訓練校である『陽海夜学園』も併設されており、戦巫女のタマゴである『戦巫女訓練生』が日々、勉強・訓練を行いプロの戦巫女を目指している。舞桜もまた、試験に合格し晴れて今日から戦巫女訓練生の仲間入りを果たした。
試験に合格し、合格通知を手にしたときは、全く実感が持てなかったが、こうして実際に花園に足を踏み入れると実感が沸々と湧いてくる。
舞桜の周りには同じく今日から訓練生として陽海夜学園に入学する生徒たちが、続々と花園の地に足を踏み入れている。
ここにいる人たちは皆、試験を突破した優秀な人たちばかり。果たして、自分はこの人たちについていけるのだろうか。そう思うと、同年代であるはずの周りの少女たちが自分よりもよっぽど凛々しく見えてしまう。
そんな弱気でどうする!
舞桜の人生はあの日から始まった。
魂魔に故郷を襲撃されたあの日から。楽しくてワクワクした、『タノワク』な日々が一瞬にして奪われた、あの時間を取り戻すために。
自分だってそんな並々ならぬ覚悟と決意でこの地に立っている。その魂は誰にも負けない!
そんな強い心を内に秘めながら、花園の映画の世界に迷い込んだような独創的な外観に見とれながら歩いていると、前方不注意が災いして、通路の縁石に躓いてしまう。
おっとっと、とバランスを崩していると、何か柔らかい感触が舞桜の頭に触れた。
態勢を立て直すと、同じ制服を着ている少女が立っていた。
「うわっ、ごめんなさい!」
舞桜は何度も頭を下げ続ける。
「な~に、いいってことよ。この正義のヒーロー、姫小百合紅奈(ひめさゆりかな)は寛大だからな!」
「優しい人で助かったよ~。もしかして、あなたも訓練生?」
「そうだぞ! ちなみに、我は今年の入試で実技試験一位! つまり、今年の訓練生の中で最強なのだ! 困ったら我に頼るのだぞ! あ~はっはっは!」
少女は調子よく天を仰ぎ高笑いした。
紅葉を彷彿させる激しく燃えるような紅色の髪を背中まで伸ばし、造花つきの可憐なカチューシャで留めている。情熱を感じさせるルビーのような真紅の瞳を宿した、背丈がある活発そうな少女だ。
「一位だなんて凄いね! わたしと大違いだ……! でも、そんな強い人といきなり知り合えたのはラッキーかも! こんにちわかば! わたしの名前は若葉舞桜。よろしくね!」
「うむ、よろしくな! というか、当たり前のように言っているが『こんにちわかば』とはなんだ?」
「わたしの苗字を組み合わせたオリジナル挨拶だよ」
舞桜が説明すると、紅奈は豪快に笑いだした。
「なっはっは! 面白い奴だな、貴様は! なんだか、貴様とは仲良くなれそうな気がするな」
「本当⁉ わたしもなんか、紅奈ちゃんといるとタノワクな気分になる気がする!」
「タノワクというのも、そのオリジナルってやつか?」
「うん、そう! 楽しくてワクワクすること! 略してタノワク! わたしのモットーだよ!」
「おっ、その言葉いいな! 気に入ったぞ!」
「ほんと? ありがとう! 絶対、わたしたち友達になれそうだよね!」
「だな。ところで、貴様はどこから来たのだ? 我は東京から夢を追ってここまで来た!」
「えっ、紅奈ちゃんも東京⁉ わたしも東京から来たんだよ!」
「なんと! よっし、では東京同盟を組んでシティーガールの力を見せつけようではないか!」
「あ、でも出身はこっちだよ」
「なん……だと。最後の最後で我々は分かり合えぬか……。ならば、また今度勝負を挑ませていただく! また会おう、我が友にしてライバルよ!」
それだけ言い残して、紅奈は去っていった。
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