第三話 タノワクなルームメイト
紅奈と別れた舞桜は宿舎棟にいた。舞桜たち訓練生はここで生活することになっている。
部屋割りは既に決められており、舞桜はフロントから予め花園に送った荷物とカードキーを受け取り、自分の部屋に向かっていた。
ちなみに部屋は全室二人部屋で、だれかと共同生活を送ることになる。
「えーと、四〇六号室、四〇六号室っと……あ、ここだ。しつれいしまーす」
自分の部屋を見つけた舞桜は、カードキーで開錠し室内へと入る。
部屋は二人で住むには勿体ないほど広く、それでいてシックな作り。木目調の壁とフローリングは仄かに自然の匂いがする。
中央のスペースを挟んで木製のベッドと本棚が左右に一つずつ。窓にかかる可愛らしいレースのカーテンの前には勉強机が両脇に二つ、勉強机を挟むようにテレビが一台置いてある。
部屋にある全ての調度品がアンティーク調で、花園の品格の高さが感じられる。
「……むっ。何用?」
室内から声が聞こえた。どうやら既にルームメイトがいるらしい。
しかしあたりをキョロキョロ見渡しても、それらしき人が見つからない。
「……ここだ、戯け者」
天井から紐でつるされている繭のような寝袋から、ひょっこりと少女の顔が姿を現した。薄紫の髪をツインテールに束ね、眠たげな虚ろな目をした、小学生にも見えるあどけない顔立ちの少女だ。
「ぎゃあああ! なんかいた⁉」
割と本気で驚いた舞桜は、勢いよく腰を抜かしていた。
少女はそんな舞桜に追い打ちをかけるように、寝袋から落下し頭から地面に激突する。
「だ、だ、だ、大丈夫⁉」
少女は舞桜の問いかけに答えることなく、椅子に腰かけると、机に置いてあった常夏に使うようなサングラスをかけ、トロピカルジュースが入ったグラスを揺らし、手元にあった饅頭を頬張り始める。
「ハッピーニューイヤー」
「普通に変な人だ!」
少女の自由奔放な振る舞いに、舞桜は振り回されてばかり。
「……む。で、結局のところ誰?」
少女は舞桜の気疲れなんてつゆ知らず、サングラスを外し眠たげな目をこすらせながら近づいていく。
「あ! こんにちわかば! ルームメイトの若葉舞桜です! よろしくお願いします!」
舞桜が元気よく自己紹介をして頭をペコリと下げるが、少女はなぜか首を傾げている。
「むぅ。……わかば。……まお。……まおう。……魔王?」
「違うよ~。『まおう』じゃなくて『まお』だよ!」
「……で、いつからわしがうぬのルームメイトになった?」
「え……違うの?」
ポカンとする舞桜に、少女は意味の分からないことを告げた。
「うぬがわしのルームメイトに相応しいかどうか、これから試験を始める」
「へぇー。…………ってええええ⁉ 試験に受からなかった場合、わたしどうなるの?」
「出てってもらおう」
「ええええ⁉ これからずっと野宿ってことぉ⁉」
思わぬ急展開に舞桜は思わず頭を抱えてしまう。
「それで試験の内容って……?」
「む! わしが喜びそうなものを献上せい!」
と言って少女はデーンと、胸を張った。
かぐや姫ばりの無理難題を押し付けられた舞桜だったが、合格しない限り野宿が確定しているので頭をフル回転させて初対面の少女が喜びそうなものを考える。
舞桜は少女をじっと観察する。こちらを眠たげな目でじぃと見つめながら、美味しそうに饅頭を頬張り続けている。
(もしかして、和菓子が好きなのかな……?)
シンプルな結論に至った舞桜は、思い出したようにカバンを探る。取り出したのは今朝、小腹がすいたときに食べる用に貰った、母親手作りのクッキー。
「こちらで、どうでしょうか!」
舞桜はまるで王様に献上するように、正座をして両の手でしっかりクッキーを持って手渡した。
少女は献上されたものを手に取り、いろんな角度に動かしながら吟味している。その様子をドキドキしながら見守る舞桜。
そして結果発表の時が来た。
「むぅぅぅぅぅ。……合格! うぬをルームメイトとして認めよう!」
「良かったあああぁぁぁ……!」
合格を言い渡された瞬間、舞桜の緊張で固まっていた相好がへにゃあと暑い日に放置したアイスクリームのように崩れた。
「紫咲摩利華(むらさきまりか)。これより献上品を貰ったお礼に歓迎の舞をする」
摩利華はベッドの上に立ち上がると、またサングラスをつけ、どこから取り出したのかラジカセをセットする。
「刻め、魂のビート! ミュージックスタート!」
格好と掛け声からヒップホップダンスでも始めるのかと思われたが、ラジカセから流れてくるのは「あ~よいよい」と、夏祭りを想起させる音頭だ。
丁寧な仕草で日本舞踊を始める摩利華。洗練された動きだが、サングラスをかけているせいでシュールな画になっている。それが舞桜にハマったのか、その姿に目を輝かせている。
「……終わり」
「わたしのために、ありがとう! めちゃくちゃ上手でそれに面白くて、すっごくタノワクだったよ!」
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