第3話 尽きぬ疑問と欲望 R15
「あ……けい……すけ……!」
「はあ、全く貴女はどこまで可愛いのだろう」
くすりと笑ってまた先生が私を弄る。
「んんんっ……あっ」
ホテルでの先生の時間は私だけのもの。
頭が真っ白になり何も考えられなくなるほどの快感。このまま世界が終わればいいのに。
「こんなに可愛い貴女の初めてを奪った彼には嫉妬すら覚えますね」
冗談か本気か分からない先生の言葉。先生でもそんなこと思うんだ、と意外に思った。
「先生のことを想いながらしてたんですよ? だから振られたんです」
「それは彼も可哀想かな」
先生は私の額に浮かんだ汗を優しく拭って、前髪を直してくれる。そしてそのまま、髪をゆっくり手ですいた。
「男の人って我儘ですね。先生なんて奥さんいるんだし、その前にだって経験あったかもしれないし」
私がつい口にすると、保科先生は手を止めた。
「それを言われると何も言えませんが。……もう妻とは四年近くしてませんね」
聞いてはいけないことを聞いたような気分になる。
「貴女がそんな顔をしてどうするんです?」
「すみません」
「謝ることではないですよ。よくあることでしょう」
先生の声は冷めていた。私はなんだか納得がいかなかった。
「先生は奥さんを愛していないんですか?」
「今日の馨は突っ込んできますね」
先生は苦笑して私の額にデコピンをした。
「イタイ……ごめんなさい」
「塾でもそうでしたね。分からないところは分かるまで質問する」
先生は一度嘆息した。
「愛、というのは難しいですね。私は妻に恋はしていません。情はありますが……。それを愛と呼ぶのかは正直分かりません」
「でも結婚した時は愛していたんでしょう?」
「また難しい質問ですね。私は恋愛結婚ではなかったのですよ。親同士が決めた許嫁。まあ、知らない仲ではなかったですし、できた女性だったので断る理由もなかったのです」
初めて聞く先生の過去はちょっと衝撃的だった。
「そんな……。先生はそれで良かったのですか?」
「私には勿体ない妻ですし、それなりに幸せでしたよ」
なんで過去形なんだろう。
「ほら、また可愛い顔が変な顔になってますよ?」
先生は私の頬を優しくつまむ。
「今日は喋りすぎましたね。忘れてください」
「忘れられません!」
先生は困りましたね、と悲しげに笑った。
「先生、もう一つだけ聞いてもいい?」
「今日はもう一つだけですよ?」
私は頷くと、こくんと喉を鳴らした。
「先生。先生はなぜ私と寝るんですか? そこに気持ちはかけらでもある?」
先生は目を瞬いて、私を見た。
「それは、どういう、意味ですか?」
先生は少し悲しげに私に問うた。
「先生は、私が先生を好きだから、都合がいいからセックスしてるんですか?」
先生は私の肩に置いていた手で自分の顔を覆った。しばらく言葉がでないようだった。
「……貴女は私が誰とでもできればすると、思っているのですか?」
今度は私が黙った。
「……私は今、馨に恋をしていますよ。誰よりも貴女を可愛く思っています。この気持ちは他の生徒に対するものとは違います。きっかけはどうであれ、気持ちが動いたんです。……ただ、愛かと問われるとそこまではいってないのかもしれない」
先生の素直な気持ち。私はそれで十分だとこのときは感じた。
「嬉しいです! 先生。でも、そしたら、先生にとって愛とはなんなのでしょうね?」
先生は今度は手を顎にかけて、思案していた。
「本当に、愛とはなんなのでしょうね。私にはまだ分からないのですよ。恥ずかしいですが」
「私にも分かりません。すみません、たくさん質問して」
私はごめんなさいの代わりに先生の背中に手を回してぎゅうっと抱きついた。
「こらこら、まだ足りないのか、貴女は?」
「もう少し時間あるでしょう?」
「困ったお姫様だ」
先生は言って上半身をベッドから起こし、私を見下ろした。ベッドが軋む音がした。
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