聖女オーレリアと悪役令嬢なる魔女の夢 ~辺境でのんびりとやり直しを望む、とある貴族の選択~・3

 調べてみれば、ロズワード家の財政は確かに、傾き加減であった。

 というより言葉を濁さず言えば、衰退の坂を今まさに転がり落ちている最中だった……。栄枯盛衰のすいにある状態である。


 リシュアン・ロズワードが当主を担った時期ののちから、坂を下るような衰退の勢いはどうにか緩やかとなったが、カティアの言う通り、これまで通りのやり方……つまり社交界でのし上がる類いの正攻法でどうにかするには、相当な天性的の才覚を必須とする荒業あらわざとなるだろう。そのこと疑いない。


 しかし、一方で。


 リシュアン・ロズワードがそれを成す可能性も、データの解析を見る限り、なくはないと見抜ける。もちろん高くはない……平面的に見て低い可能性ではあるが、社交界の噂から見るリシュアンの人物像からして、この人物であれば――、と思わせるカリスマも備えていた。


 さて、この大陸における社交界というものは、平たく言えば影響力のレースである。その影響力を活かして、統治する土地の交易、貿易の潤滑油となること、それがこの大陸における貴族の大きな役割。


 つまり社交界での噂は、影響力そのものであり、ということは、リシュアンは現状からして、そこそこの影響力を示しているということになる。


「ふーむ……」



 今のままだけでは厳しいので、自ら産業を興す、産業貴族を目指す選択が最良である。


 尊敬の褪せない先祖代々から継承した、ロズワード家の誇りを胸に、未だ自身にしか見えないその気高き輝きを証明するため、今までの方法でのし上がりたい。



「どちらも、展望は確かで、かつ、どちらも……リスクをしっかりと承知していましてねぇ……」


 多くの人はどのように考えるだろうか?


(それもまた千差万別、十人十色ということになりましょう。ふーむ……)


 アルタシア領域の大聖堂、その一角で悩んでいたオーレリアは、やがてお付きの者から受け取った紙束をパタンと机に置くと、サッパリとした顔で言ったのだった。


「うん、私にはどうにもできません。お手上げでして」


 そうして、相談事の関連について詳細に記された資料をお付き執事へ返すと、あとはもう、目の前の、別の問題に意識の焦点を移動させていた。


 もちろん、このあと会う約束のある母へ、この話を打ち明けることなどできない。

 予定された談話もそぞろに、相談と称して、丸投げの形で【ルミナルクス】へ今回のことを任せるような真似など、ナンセンス……できるはずもない。


 オーレリアはすっかり解決の責任を放棄していた。


 だがそれが――【ジュミルミナ】としての、彼女の選択であったのだ。



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