35話
「す、すごい……! ここが聖地のシュデリウス家! あー、今すぐ僕の目をカメラにしたい!!」
シュデリウス家に到着からずっと興奮しっぱなしでひたすら一人で話すオタク全開な人物こそ、ラビルが協力者として呼んだ人物。今日はお忍びではなく、正式な招待状での訪問なので以前のようなローブ姿ではなく正装で現れたその人物の登場にビリアスは目を見開く。
「ら、ラビル……。俺の考え過ぎな事を願いたいんだが、目の前に居るのが噂でしか聞いた事ない王太子殿下に似てる気がするんだが、気のせいだよな?」
「うん、その王太子殿下だよ」
あっさりと肯定されれば、ビリアスの空いた口は塞がらなくなる。兄がこんなアホそうな顔をするなんて珍しいなとか考えていたら、わたし達の存在に気付いたらしい王太子がただでさえ輝かしい七色の瞳を更にキラキラとさせて駆け寄って来る。
「わぁぁぁ! ほ、本物のビリアス様だ! あ、あの、僕はコルディニア=フラット=ワティスと申します! 一応、王太子殿下とか呼ばれていますが、気軽にコルディって呼んでくださいね!」
「さ、様? あー……初めまして。えーと、よろしく」
コルディニアのすごい熱量に圧倒され、ぎこちないながらも何とか握手をしようと手を差し出すなり上がる黄色い(?)悲鳴にビリアスが助けを求めるようにわたしを見つめてくる。
「ええと、以前はどうも。ちなみに私の事は覚えています?」
「あ! あなた様は以前、アーシック様にサインをお恵み頂けるようにして下さった女神様! ビリアス様の妹様だったんですね!」
王太子が生粋の四家門の後継者オタクであるのは先日の件から知っていたが、まさか自分まで女神様という高尚な名で呼ばれるとは思っておらず、脳内は混乱しつつも気を取り直して本題に入る事にする。
「め、女神様……? えっと、私はラビル・シュデリウスと申します。急にお呼びだてして申し訳ないです。実は王太子殿下にお願いしたい事がございまして」
「あ、ミラーナさんとの婚約解消ですよね? もう父上に申請しています!」
「は? あ! ではなく、ど、どうしてその事を?」
全く予想していなかった返答につい王太子相手に無礼な態度で聞いてしまったのを慌てて取り繕って問えば、彼は満面の笑顔で言う。
「そりゃあ、ビリアス様関連の噂なら常に諜報員を配置してチェックしていますから! ミラーナさんと親密な関係になったのなら僕は応援するのみです!」
前半は聞き捨てならないが、後半の発言は有難いので聞かなかった事にした。ついでに兄が険しい顔になったのも見なかった事にする。
「まぁ、立ち話もなんですから、座って話しませんか? アニモ、お茶の準備をお願いね」
「かしこまりました。すぐに準備いたします」
「うわぁぁぁ! ほ、本物のアニモ様だ! すごい!!」
アニモが引き攣った微笑みを向ければ、また黄色い悲鳴が上がる。使用人にまで様付けをする王太子なんて彼くらいではないだろうか。アニモが人数分のお茶やお菓子を用意している間もコルディニアは部屋の中を見渡したり、兄の顔を交互に見たりと多忙そうにしている。ちなみに兄は本題を話す前から既に疲労困憊の顔色である。
コルディニアの推し活パワーが強過ぎて兄は力尽きそうなので、わたしが話した方が良さそうだなとお茶の支度が整ったタイミングで口を開く。
「それで、コルディニア王太子殿下。本題なのですが」
「あ! ラビル様も僕の事は気軽にコルディと呼んでくださいね! 王太子殿下なんて他人事みたいで悲しいですから!」
速攻で出鼻を挫かれて若干心が折れそうになるが、すうはぁと小さく深呼吸をして乗り越えた。いくら四家門の後継者当主の妹とはいえ、ほぼ初対面の令嬢が王太子殿下を愛称で呼ぶのはあまり世間体敵とか諸々の観点からよろしくない気がする。
しかし、目の前でこれでもかと王家特有の瞳を悲しげに揺らしながらジッと見つめられてしまった今、断れる人間など居ないだろう。体格は兄どころかかなり鍛えているアーシックよりも大きいというかなりの高身長なイケメンなのに、実際の中身はチワワである。詐欺すぎる。
「あー……では、お言葉に甘えましてコルディ様と呼ばせて頂きますね」
「敬語もなしで! それから様じゃなくて、コルディですよ!」
頬を膨らませて漫画ならプンプンと効果音でも見えてきそうな言い方に、外見と内面の正反対っぷりが凄まじくてラビルは内心で思う。
(これがワンコ系後輩ってやつ!?)
ハッと我に返ると、首を振って思考を切り替える。このままではひたすらコルディニアの推し活ターンになってしまう。
「こほん。では、コルディ。先ほどのお話ですけど、それは事実ですか?」
「もちろんです! ビリアス様がお慕いしている方を僕が奪うなんてとんでもないですから」
ラビルの問いに何度も首を縦に振るコルディニアに安堵する。
でも、とコルディニアは苦い表情で続ける。
「父上が婚約破棄するならミラーナさんと同じか、それ以上に治癒術を使える女性を見つけて嫁にしろって言うんです」
「そんな……」
希望が見えてきたかと思ったけど、どうやら現実はそんなに甘くないらしい。
「で、でもさ、治癒術の使い手って世界中探せば少しは居るんだよね? それなら可能性はあるんじゃない?」
先日、アーシックに聞いたのは地水火風の術は四家門の特徴で家門関係者しか使えないが、治癒に関しては稀に家門関係なく術を使える者が居るという話だった。だから、わたし達の国だけではなく海外まで頑張って探せばもしかしたらミラーナと同じか、あわよくばそれ以上の人物が居るかもと思ったのだが、二人の顔色はあまり明るくない。
「国内ならともかく、海外はもっと厳しいな。治癒術を使える人材は貴重だから、基本的に国外での結婚は禁じられているんだ」
「ビリアス様のおっしゃる通りなんです。王家であっても、それが出来なくて。だから、国内に居ないかと思って変装して街を探し歩いていたら、たまたまアーシック様に会えてサインもらえたんですけどね! あれは嬉しかったなぁ!」
最初は暗かった表情が先日の出来事を思い出したからか、次第に明るくなっていくのを見て、どうしてコルディニアがローブを着てあの場に居たのかを理解した。彼はわたしより先に婚約破棄に向けて動いてくれていたのだ。
「コルディ……ありがとう!」
「え?」
テーブル越しにある手をギュッと両手で包むように握って礼を告げるラビルを驚きからか、まん丸になった瞳が見つめてくる。
「私より先に色々とお兄ちゃんの為に動いてくれてありがとう! コルディは優しいんだね。本当に大好き!」
「だ、だ、だいすき……!?」
「うん、大好きだよ!」
ギュッと掴んでいた手はそっと横から伸びてきた兄の手によって離された。
「……ラビル。年頃の令嬢が異性の体に触れるのは良くないぞ」
「あ、そうだった。ごめんね、コルディ」
「だ、だいすき……だいすき……?」
壊れたロボットのように繰り返すコルディニアにはラビルの声は完全に届いていないようだった。
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