30話
「こんな所でどうしたの? ラビルちゃん」
「トーイ君こそ! どうして、ここに?」
突然の人物の登場に色々な意味でドキドキしながらも、なんとか冷静を装いながら答える。それに気付いているのかいないのかは分からないまま、トーイはいつもの優しい表情のまま続ける。
「俺はミラーナの手伝いが無い日は施設の手伝いに回ってるんだよ。ここの領地は特に畑仕事が大変だから、よく手伝いに来てるんだ」
トーイ曰く、地の家門が領主を務めるこの街は外国からの防波堤を兼ねているらしく、国内であれば平坦な道のりだが外国側の入り口は山のように高く盛り上がった土地になっている。その工夫は外敵を防ぐのに優秀だがその分、外国側の入り口に常駐する門番達も領地に戻ってくるまでにかなりの日数が掛かってしまう。
その為、親が門番の仕事をしている子ども達の世話を一時的に施設で行うらしく、他の領地に比べてここは施設が多いようだった。孤児ではないけど、親が居ない子供の寂しさは前世で痛いほどに体験している。
だから、トーイは放っておけないのだろう。前世も今世もそういう優しいところは変わっていない事に安心した。
「ここは土が良いから、畑もやり甲斐がありそうだもんねぇ」
「そうそう。さすがラビルちゃん、やっぱり気付くよな」
「……で、誰なんだ。コイツは」
駆け寄って来たトーイ君との会話に集中してしまっていたが、アーシックの低い声でハッとして振り返れば明らかな不機嫌そうな顔をしていた。
「あ、ごめんごめん。紹介してなかったよね、こっちはトーイ君って言って私の友ーー」
「初めまして、トーイ・ヒルッセンと申します。ラビルちゃんがお世話になったようで礼を言いますね」
「……礼? なんでオマエがラビルが世話になって礼を言うんだ?」
「それは俺とラビルちゃんの仲ですから」
「は? だから、それがどんな仲だと聞いて」
「ちょ、ちょっとちょっと! なんで二人とも初対面でそんな喧嘩腰なのよ!」
気付けばわたしの両隣で睨み合うようにして立つ二人に挟まれるような状況になっていて、慌てて制止するがお互い引きそうにない。
(な、なんでこんな状況になるの~!? それにトーイ君、どうしてあんな誤解されるような事を言ったんだろ……?)
もしかしてヤキモチだったりして、と浮かれているのも一瞬、アーシックが小声で何かをトーイに呟いたのが見えた。二人ともわたしより頭二つ分くらい背が高いので、呟きの内容は聞き取れなかった。
ただ、その言葉に最初こそ微笑を浮かべていたトーイの顔が引き攣っている。反対にアーシックは何故か得意げな顔をしている。なんだか嫌な予感がする。
「あ、アーシック! トーイ君に何か変な事を言ったでしょ!?」
「別に変な事なんて言ってないぞ。ただ、数日間、ずっと二人で一緒に過ごしていたと言っただけだ」
「ば、バカ! それは語弊がありすぎるでしょ!」
勝利を確信したのか嬉々とした笑顔のアーシックに対して、トーイ君の心ここにあらずといった風に目が遠くなっていた。
「トーイ君、誤解だから! えっと、お兄ちゃんの代わりに集まりに参加して、少しだけ領地を見せてもらってただけだから!」
「……でも、その割にはさっきからすごく仲が良さそうに見えたけどね」
少し距離があったから大丈夫かと思っていたけど、ばっちり見られていたようだ。どこか恨めしそうに言われてしまえば、言葉に詰まってしまう。
「そ、それは……」
「ミラーナ達の件で伝えたい事があったけど、どうらやら忙しいようだね」
「え!? ミラーナさんとお兄ちゃんに、なにかあったの!?」
「ビリアス氏? ……それならオレは少し離れた場所に居るから話すといい」
わたしの言葉にアーシックも反応する。
そういえば、食事会の時にも聞いたのだが、王太子ほどではないらしいけどアーシックも兄を尊敬しているらしい。だから、気に掛けてくれたのだろう。兄に関する話と聞こえてすぐ一時休戦だと言って、先に畑に向かっているぞと歩いて行った。
兄とミラーナの婚約話はメインキャラの一人であるアーシックの前では話にくかったので、気を遣ってくれて助かった。オレ様のようでいてちゃんと周りに配慮が出来る一面もあるから、小説のファンはそれなりに居たのではないだろうか。
そんな推測をしながら無意識にぼんやりとアーシックの後ろ姿を見送っていれば、こほんとわざとらしい咳で我に返る。
「話を続けていいかな?」
「も、もちろん! それで、さっきの伝えたい事って?」
「俺もつい、こないだミラーナから聞かされたんだけど」
不自然に言葉を切って、トーイが周囲に誰も居ないか改めて視線だけで確認する。
わたし達の近くには既に誰も居らず、本来の目的地であった少し先の位置にある畑にはアーシックと数人の子供達が見えたのを確認してから口を開く。
「ミラーナとビリアスが婚約したらしい」
「……へ?」
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