29話

 「……おはよう」

 「お、おはよう。なんか疲れてるね。大丈夫?」


 翌日、またしても一人で食べるには豪華すぎる朝食に圧倒されているところに、昨日とは打って変わってげっそりとした今にも倒れそうな顔色でアーシックがダイニングルームにやって来た。

 どうやら昨日のローブの人物が噂で聞いた王太子殿下の特徴だったらしく、服装的にあまり綺麗とは言えないローブ姿だったのでもしかしたら、領地内で誘拐でもされているのではないかと急ぎ王家に確認の連絡をしたりと大変だったようだ。

 その結果、昨日のローブの男性は王太子殿下で間違いなかった。そして、昨日のローブも変装用として自分で用意した物らしく、なんでも王太子は四家門の後継者ファンで隙を見ては各領地に訪れては推し活をしているらしい。王家から今回の件は内密に、と報せが来たことで今回の件は決着がついたようだった。

 なんでも王太子は外交などで顔を出す方ではなく、体が弱く王宮の外にはあまり出ないという噂だったがあの様子を見た限りでは体調不良どころか発育良好過ぎる背の高さと体格だった。推し活をしやすくする為にその噂を流しているのだとしたらかなりの策士かもしれない。


 「えっと、もし疲れてるようなら今日は休んだら? 畑は私一人でも見に行けるし」

 「それはダメだ。絶対に離れないとオマエの従者と約束したしな」

 

 体調を心配して出した提案だったが、あっさりと却下された。アーシックが言ったのはアニモが先に領地に戻る際に交わした約束だ。

 必ずラビルお嬢様の側にいて、お守りください、と。

 そんな戦場に赴く訳でもないのに大袈裟だなぁと思っていたが、アーシックは強く頷いていてなんだかわたしだけ置いてけぼりにされた。なので、昨日も一日ずっと屋敷を出て帰るまで一緒の時間を過ごしていた。

 おかげで色々な一面を知れた気がする。

 時には優しかったり、強引な一面もあったりとうっかり、ときめいてしまう事もあったがその度になんとか正気を保った。


 (わ、わたしが好きなのはトーイ君でしょ! ……向こうは……わたしのことなんて興味ないかもだけど……)


 昨日の散策中も何度か、それが脳裏に過ぎっては無意識に小さな息が漏れてしまった。


 「……なぁ、ラビル」

 「ん? なあに?」


 領地に戻る前日の今日は街の散策ではなくて、畑の見学をお願いした。貴族で畑を見たいと言うのはオマエくらいだろうなと笑われたのは少しムカついたけど、結局は許可をしてくれて今は二人で近くの畑へと向かう道中、アーシックが口を開く。

 しかし、名を呼ばれて返事をしたもののアーシックからの反応がなく、不思議に思い視線をそちらへ向けるとまっすぐにわたしを見つめる茶の瞳と目が合う。


 「こないだの話だが、オレは本気だ」

 「こ、こないだの話ってな、なんだっけ?」


 本当は分かっていた。

 わざと覚えていないフリをしたのだが、どうやらそれは通じなかったようだ。


 「とぼけるなよ。短い時間だったけど、オレは初めて女と一緒に居て楽しいと思った。もっと一緒に居たいと思った」


 真剣な声と表情で言葉を紡ぐアーシックに何も言えない。このまま聞いていたら良くないと思うのに、わたしは何も言葉を出せないでいた。


 「ラビル、オマエが好きだ」


 胸が、高鳴ってしまった。

 違う。違うのに。

 アーシックはメインキャラの一人であって、本来ならヒロインであるミラーナと結ばれる可能性があるはずの人で、サブキャラのわたしと関わるなんて有り得ないのに。

 それでも胸が高鳴ってしまう。これは恋とかではなくて、ただ告白なんてされたのが前世も含めて初めてだから戸惑っているだけで、と内心で言い訳を必死にする。


 「だから、ラビル。オレの婚約者にーー」

 「あれっ、ラビルちゃん!?」


 アーシックの言葉と重なった声。

 少し先の畑から駆け寄って来たのは……。


 「と、トーイ君!?」

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る