28話

 正直、気まずいと思っていたアーシックと二人での領地内の散策はとても楽しかった。

 地の家門という名の通り、大地の地形変化など整地が得意なようで街のどこもかしこもが綺麗な平地で、馬車で移動してもこれならかなり揺れが少ないだろうなと少し羨ましくなった。

 地形を変化が出来るので王家周辺も高い塀代わりに大地を高くした事でかなりの財を築き、今も各地で地震が起きた際に崩落してしまった道路などを補修しているので、相当な財があるので数世代は働かなくても生きていくには十分な財力があるようだ。巷では王家すらも超えた財力を持つと言われる地の家門と言われているらしい。

 と、ある程度の散策で足が疲れたところで、最近出来たばかりというカフェに連れて来てもらった。大人気メニューが焼き菓子と聞いていたが、出てくる物全てが美味しい。

 移動途中に少し見えた畑は様々な農作物が豊富に実っていたので、恐らく土も良いのだろう。うちの領地は火の家門による火の影響なのか、土がパサパサと乾燥気味で農作物も実りにくいので輸入に頼ることが多かったので感動してしまった。

 飲み物だけのつもりだったのに、野菜たっぷりのパスタや果物たっぷりのフルーツジュースが美味しくておかわりを頼むか悩んでいるところでアーシックが口を開く。


 「それで、我が領地はどうだ? 良い場所だろう」

 「うん! 地面も歩きやすいし、何より……」

 「何より?」

 「畑が広いし、土が良いから作物が育ちやすいのが最高!」

 「は? 畑? 作物? ぷっ、ハハハハ! オマエって本当に変なヤツだな!」


 何がツボに入ったのか、よくは分からないが何故か爆笑された。アーシックは笑い上戸なのだろうか、別に面白いことなど何一つ言ってないのだけどとラビルが不思議がっていると、ふと視線を感じる。


 「…………あ」


 ぱっちりと視線が合うと、目深に被っていたローブを更に引っ張ってしまい、全く顔が見えなくなったが確実にこちらを見ていた。こちら、というよりアーシックを見ていた気がする。


 「……ねぇ、アーシック。あなたの少し後ろの方に座っているローブの人って、知り合い?」

 「は? 誰のことだ?」

 「あっ! ちょ、ダメだって!」


 せっかく念の為にと警戒して小声で聞いたのに、アーシックは険しい顔をするとすぐに振り向いてローブの人物を見つける。ラビルの制止の声も聞かず、そちらへと迷うことなく足を向ける。

 言い出しっぺ(?)の責任があるかと慌てて、ついていくラビル。


 「オレになにか用があるのか?」

 「ヒィ!?」


 アーシックに話しかけられたローブの人物は体を小刻みに震わせている。遠くから見た時は猫背気味で気付かなかったけど、座っているだけでもわたしと同じくらいの高さなのでしっかりと立ったら、もしかしたらアーシックよりも背が高いのかもしれない。だからこそ、大きな体で震えている姿はなんだかちぐはぐな光景だ。


 「だから、オレに用があるのかと聞いているんだ」

 「は、はひ!?」


 アーシックの言葉に返ってくるのは、先ほどから悲鳴とも言えるような情けない声だけ。最初は警戒から語気が強かったが、予想とは違う反応でアーシックもどうしたものかと困惑した様子でわたしを見る。


 (よ、よく分からないけど、わたしが間に入った方が良いのかな?)


 このままでは埒が明かなさそうなので、二人の間にラビルが入ることにした。


 「え、えーと、何かアーシックに用事があったんですか?」

 「そ、そそそそんな! 用事だなんておこがましいです!!!」


 ラビルの問いにローブの男性は俯きながら首が取れてしまうのではと心配になるくらいに激しく首を横に振る。その姿を見て、ある事が閃いた。


 「あ。もしかして、あなた……アーシックのファンなの?」


 そう、今日の半日と短い時間ではあるがアーシックと領地内を歩いて気付いた点。彼は領民達にかなり慕われていた。最初はオレ様系の印象だったけど、実際に話をしてみるとオレ様な所もありはするけど丁寧に領地や家門について説明してくれる面倒見の良さ。更に今日訪れた店に居る客全て一日の支払いをするという太っ腹すぎる一面もある。この数時間だけでこれだけ良い面を見つけられたのだ、相当な数のファンが居たとしてもおかしくない。だから、閃いた。目の前のローブを被った男性もアーシックのファンなのではないか、と。


 「あ、は、はい! きょ、今日は外を散策されていると、その、う、噂を聞きまして」


 予想通りの回答でほっと安堵する。見た目的に不審者では、と警戒していたが挙動からして違和感があったのだ。勘が当たってよかったと安心していると、ひらりとテーブルから何かが落ちるのが見えた。


 「あ、なんか落としましたよ」

 「あっ、そ、それは!」


 落とした何かを拾うと、一枚の写真。そこに写っているのは……。


 「あ、アーシックの写真?」

 「す、すみません! ファンクラブ限定の大事な写真なんです! 拾って頂いてありがとうございます!」


 わたしから写真を受け取るとバッグから写真入れを取り出して、その中へ宝物のようにしまう。

 よく見たら写真の端の方にファンNo.03と書いてあったのでかなり古株のようだ。まぁ、いつからあって何人居るのか分からないファンクラブではあるけど、今日の感じを踏まえるとそれなりの人数は居そうだ。


 (こ、これはなかなか強火な推し活そうな人だなぁ……)


 ちらりとアーシックの方を盗み見ると、声には出さずとも顔に???と書いてあるような、もうどうしたらいいのか分からないと困惑の表情を浮かべていた。推される側からしたら確かに推し活している人の熱量など分かるはずがない。

 前世でよく、あみ姉と色々な漫画とかの推し活をしていたわたしに出来るのはただ一つ。

 それは……ファンサ!


 「ねぇ、アーシック。ファンクラブまで入ってる強火オタク……じゃない、ファンなんだし、握手くらいしてあげたら?」

 「握手? そんなの別に嬉しくないだろ」

 「嬉しいです! ぜひ!! よろしくお願いいたします!!!」


 食い気味に両手を差し出す人物に戸惑いながらもアーシックが握手をする。


 「あ、ありがとうございます! ありがとうございます! もう、この手は一生洗えない……!」

 「いや、普通に洗った方がいいだろ」

 「そういう事言わないの」


 握手してもらった方の手を大事そうに抱えるようにして歓喜するローブの男性にアーシックがさらりとツッコミを入れるのを、小声で諌める。


 「あ、あ、あの、失礼を承知でお願いがあるのですが、その、さ、サインを頂けないでしょうか!」

 「は? サイン?」

 「は、はい! あの、この写真の下の方に書いてもらえたら家宝にさせていただきたいと思いまして!」


 握手を交わしてから緊張の糸が切れたのか、急に積極的になりだしたローブの男性に戸惑うアーシックの姿はなかなか新鮮で、もし今世にスマホがあったら確実に写真を撮っていたに違いない。笑いそうになるのをなんとか堪えていると、アーシックの目が助けてくれと訴えかけてくる。


 「悪いが、もう時間が」

 「サインくらいする時間はあるでしょ。ほら、早くサインしてあげて。それから帰ればいいんだから」


 突き刺さるような視線を感じるけど、そちらの方は一切見ないことにした。代わりにいつの間にか興奮のせいか、ローブがズレて男性の顔が見えている事に気付く。

 店内の照明で照らされている瞳の色はよく見ると、うっすらと七色に光っていてまるで虹のような美しい色彩で思わず目が奪われてしまう。


 (わぁ~、すごい綺麗な瞳! やっぱり、小説の世界なだけあってこんな綺麗な人も居るんだなぁ)


 あまりに美しいその瞳に目を奪われていると、ハッと視線を察したローブの男性が慌ててまたローブを被ってしまった。


 「あ、あの、今……ぼ、僕の瞳、見てしまいましたか……?」

 「え? あ、ううん! 少しボーッとしてただけだから、何も見てないですよ」

 「そ、そうですか。よかった……」


 見られたくなさそうだったので、咄嗟に嘘をついてしまった。綺麗な瞳の色だけど、人によってはコンプレックスの可能性もなくはない。だから、こうして見えないようにローブを深く被っているのかもしれないなとラビルは思った。


 「ほら、終わったぞ。書類以外でサインなんてよく分からないが、これでいいか?」

 「わぁぁぁ! ありがとうございますありがとうございます!! 代々の家宝にさせて頂きますね!」


 いつの間にかサインを終えていたアーシックから両手で写真を受け取ると、何度も頭を下げながらローブの男性はカフェを出て行った。


 「なんか変なヤツだったな」

 「あはは、いいじゃない。それだけ熱烈なアーシックのファンって事でしょ。……あれ? あの人、ペン忘れてない?」


 テーブルの上に置かれたままのペンを拾って、よく見てみるとかなり精巧に作られていて使わなくても、それがかなりの高級品だと分かる。もしかしたら、かなりの御曹司だったのかもしれない。


 「なんか不思議な人だったよねぇ。瞳の色も綺麗だったし」

 「瞳の色? 何色だったんだ?」

 「七色で虹みたいに綺麗だったよ。でも、なんで隠してーー」

 「七色!?」


 言葉の途中でアーシックが大声を上げる。


 「そ、それは本当なのか!?」

 「え? う、うん。ちらっと見えたんだけど、綺麗だったなって」


 まさか……とアーシックの顔が青ざめていくのに一抹の不安が過ぎる。


 「ね、ねぇ、アーシック。さっきの人に心当たりあるの?」


 恐る恐る尋ねると、アーシックは青ざめた顔のまま静かに答える。


 「あぁ。この国で七色の瞳を持つのは一人しか居ない。それは……」

 「それは……?」

 「……王太子殿下だ」


 まさかの人物の登場にわたしは叫び声すら上げられなかった。


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る