27話
「はぁ……」
もう何度目なのか、数える事すらやめたため息。目の前に置かれているとっくのとうに空っぽになったティーカップにお代わりを注ぐ気力すら出ない。
(ラビルちゃん……俺の事、怒ってるかな。いや、呆れてるかもなぁ……はぁ……どうしたもんか……)
先日、偶然ラビルと再開したトーイが喜んだのも束の間、彼女の提案を拒否してしまった。内心ではもちろん同じ気持ちだ。前世でトーイが二人の幸せを奪ってしまった。二人だけではなく、想い人であるラビルの命までも。
(……情けないよな。また俺の目の前で皆を失いたくなくて、それならいっそ出会わない方がいいと思うなんてな……)
前世での最期の光景は今でも夢に見るほど、トーイの魂に深く刻まれていた。
紅輔とあみが手を伸ばし合って触れ合う直前、建物が崩れて紅輔と朱音ちゃんが瓦礫で見えなくなった。
あみの悲鳴を聞きながら、俺はただ呆然としていた。
何も出来なかった。紅輔を、朱音ちゃんを助けたかった。あみを今すぐ連れて外に出るべきだった。
それでも俺の足は全く動かなかった。あみは瓦礫を必死に退かしていた。手からは血が出ていたが、気にも留めず。
俺のせいだ。俺が火の番だったのに、寝てしまったから。俺が紅輔を、朱音ちゃんを殺してしまったんだ。
頬に何かが伝っていく。次から次へと流れる其れは止まる気配がない。
あみと並んで瓦礫を退かそうと手を伸ばそうとした矢先、大きな音が聞こえたと思えば体全身に強い衝撃が走る。
『あ、み……だい、じょぶ、か……?』
体はもう動かせなかったが、辛うじて視線だけをあみの方に向ける。彼女が居た場所は瓦礫しかない。代わりに見えたのは真っ赤な水溜まりだけ。
俺が、俺が、全員を殺してしまった。俺のせいで、皆が居なくなってしまった。
もし、生まれ変わる事が出来たなら許されなくていい。ただ、皆に謝りたい。
もし、生まれ変われたのなら……殴られてもいい。それでも、また皆に会いたかった。
(……って思ってたくせに、いざ皆で生まれ変わって再会したら過去のトラウマで会いたくないとか、チキン過ぎるだろ!)
またトーイが気に病んでいるのは別の理由もある。前世で起きた火事の原因をラビルは知らないのだ。もし、真実を知ってしまったら命を奪った犯人とも言えるトーイは確実に嫌悪されるだろう。それだけが怖かった。
いっそ、このまま前世の事なんて忘れてそれぞれ皆が別の新しい人生を歩んだ方がいい。幸いにもビリアスとミラーナには記憶が無さそうだし、ラビルも最期の記憶は火事による酸素中毒で記憶が曖昧だった。
それならば、記憶のある自分だけが覚えていて墓場まで持って行けばいいと決意した。前世から今世でも抱えたラビルの気持ちは胸に秘めたまま、独りで生きていく事が前世の贖罪になるだろうと。
はぁとまた深い息を吐いた所で、ドアがノックされる。
「トーイ、私よ。入っても大丈夫かしら?」
「ミラーナ? あぁ、どうぞ」
明るい声色で話すミラーナを不思議に思いつつ、ドアを開けると今にもスキップでもしそうなテンションの高さに更に疑問符が浮かぶ。
「なんだ? 今日はやたらと機嫌が良さそうだね。良い事でもあった?」
「うん! だから、トーイにも伝えなきゃって思ってね」
ミラーナの分のお茶を新しく用意してから、ついでに自分の分もお代わりを注ぎ、椅子に腰掛けたようとしたところで、実はね……と続く。
「私、ビリアスと婚約者になったの!」
満面の笑顔で笑うミラーナと、椅子に腰掛ける直前で床に倒れ込むトーイ。
「え!? だ、大丈夫!? 怪我はない?」
「だ、大丈夫大丈夫。えーと、今なんて?」
「うん。ビリアスと婚約関係になったの」
もう一度紡がれた言葉はやはり聞き間違いではなくて。爵位的にはビリアスの方が上になるので、婚約の提案をしたのは彼からなはず。
しかし、今のミラーナの様子からして、嫌々というよりむしろ嬉々としているあたり、お互い承知の上での事なのだろう。
今まで二人には接点が無かったはずなのに、ラビルを通じてミラーナがシュデリウス家に遊びに行ったのがきっかけだったのか。ラビルが前世の記憶を取り戻してからこの世界が変わり始めた気がする。
もしかしたら、もうラビルやトーイが何もせずとも二人は運命の糸で結ばれていて幸せになれるのかもしれない。
そうだとしたらトーイに出来るのはただ一つ、二人が幸せになるのを後押しするだけだ。
「そっか。なら、王太子との婚約破棄作戦、本格的に動きだすとするか」
「うん! 頑張ろうね!」
ミラーナの笑顔を見てトーイは決意する。
(今世こそ……この笑顔を守ってみせる)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます