26話
悲鳴を上げた後、なんとか説得(?)をしてアーシックにサポートしてもらえたおかげでなんとかドレスの着替えは完了した。恐らく、先ほどのような剣の鍛錬で出来たマメが目立つ無骨な手ではあったが、ドレスに触れる手つきは繊細で優しかった所を見ると後継者の教育として、紳士であれと教育されていたのだろう。
ただ、口の方は全く紳士では無かったけれど。着替えが終わった時にちょうど、朝食に呼ばれて今は朝だというのに昨夜の食事会に負けないくらいの量と種類に食事が並べられている。
朝からフードファイトかと思って遠い目をしていたら、大丈夫そうな物は包んで昼食にするかとアーシックの提案に激しく頷いた。貴族としては常識が無いと思われるだろうけど、それ以上に食べ物を粗末にするのが嫌だった。
本当に変わったヤツだな、とアーシックが楽しそうに笑っていて、周りの使用人の人達は何故か温かい目でわたし達を見ていたのは気のせいだと思いたい。
そして、朝食を食べ終えようとしていたくらいにアーシックが口を開く。
「オマエって、本当にビリアス氏の妹か? 野生で自然発生したんじゃないか?」
突然の失礼過ぎる質問にカチンときたラビルの頭の中には四家門の後継者であり、彼がメインキャラの一人だという事もすっかり抜け落ちていた。
「失礼すぎでしょ! 仕方ないじゃない、アニモは先に帰しちゃったんだし、朝食の支度で忙しいメイドさん達に頼むのも悪いし」
「いやいや、メイドよりオレに頼む方が悪いって思わないのかよ!」
「あ、確かに。近くに居たからちょうどいいかなって」
「ちょうどいいって……ハハハッ! オマエ、もう面白すぎるだろ!」
回答がツボに入ったらしく、笑いすぎて若干、涙目になっている。
(そんなに笑うほど、面白いかなぁ。貴族のツボってよく分からないわ)
ようやく爆笑が落ち着いたアーシックがまっすぐにこちらを見ていた。更に、見つめてくる瞳はなんとなく、ナニかが込められているような。
「ラビル」
「きゅ、急に真面目な顔してどうしたの?」
なんとなく正面からその視線を受けるのは良くない予感があったが、あまりにまっすぐで強い其れから顔を背ける事なんて出来なかった。
「ラビルの事が気に入った。婚約者がまだ居ないなら、オレの嫁にならないか?」
「あぁ、嫁ね。…………嫁ぇぇぇ!?!!?!!?」
今度はラビルが叫び声を上げる番だった。
◇ ◇ ◇
(……もしかして、小説の中でこの立ち位置になるのってヒロインだった? わたしが代わりに来たから、入れ替わっちゃったとか? いや、でもお兄ちゃんの代わりだからヒロインとの繋がりはないはずだよね。あー! もう、どういう事か分からないよー!!)
「あ、あの、ラビル様。非常に申し上げにくいのですが、お髪を整えますので少々止まって頂けましたら助かります」
「え、あ! ごめんなさい! 大人しくします!」
自分の世界に入り過ぎてしまいアーシックから命じられて来たメイドに髪のセットをしてもらっていたのをすっかり忘れていたラビルはすぐに謝罪し、無意識に頭をぶんぶんと左右に振り回していた恥ずかしい姿を見られた、と頭を抱えたくなったが実際は出来ないので代わりに内心で大きくため息を吐くだけにしておく。
以前、トーイからこの世界の大まかな設定やらメインキャラについての説明は受けたが、ヒロインとどうやって恋仲になっていくのは聞いていない。ただ、トーイ自身もうろ覚えな部分もあると言っていた辺り、恐らく彼も詳しくは知らないのだろう。
詳細に分かっていたのなら、彼は既に色々立ち回れる人だ。だからトーイを責めるのはお門違いである。
頭では分かっていても、心では覚えておいてよー! ともはや、八つ当たりに近い恨み言を思うラビルであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます