24話
「それで、オマエ達はもちろん泊まっていくよな?」
食事会を終えた頃には既に陽が沈みかけていた。緊張していた集まりだったが、三人が気遣ってくれたのだろう。ビリアスが領主を務める領地から一度も出た事がないラビルの為に、それぞれの領地の話をしてくれたのだ。
おかげで緊張はかなり解れて、美味しいご飯の味をしっかりと味わえた。
時間も頃合いだろうし、そろそろ解散だろうと思った矢先でのアーシックの発言にわたしだけでなく、他の二人も驚いている所を見るとどうやら彼らも知らなかったのだろう。
「せっかくのお誘いだけど、泊まりは無理。明日も仕入れの手伝いがあるのよね」
「ご、ごめんなさい。私も明日は学校で授業がありますので」
さっきの食事中に聞いた話だと、フェイズは家門が行っている商会の手伝いを行っているらしい。男性でありながら美容意識が高く、彼曰く美容に男女は関係ない、との事。かなりの努力家で毎日のスキンケアは当然として、最先端のコスメが発売されたらすぐに自分で試して良い商品はすぐに交渉をして商会で販売まで漕ぎ着けるようにするらしい。そんな彼の努力は巷では有名だからこそ、あのフェイズが仕入れたなら買うしかない! と美容オタクに人気が高い。更に今まで顧客は女性しか居なかったが、フェイズに憧れる人が後を絶たず今では男性にも結構売れているらしい。
一方でジェイルは頭脳明晰なようで、学校を主席で卒業してから家門の後継者として公務を行う傍ら母校の講師も務めているとの事だった。学問が好き過ぎるあまり、質問に来た生徒と毎日のように語り合ってしまい、しょっちゅう公務に支障が出て父に叱られているんです、とションボリしていたが、毎日来るという事はかなりの数の生徒から慕われているのだろう。ジェイルの家門もアーシックには少し劣りはするものの、かなり裕福な方だが代々、質実剛健をモットーとする為、領民でありながら贅沢は絶対せず領民達に還元をしていた。その為、領民達からかなり尊敬されているようで一度も反乱などが起きた事が無い唯一の領地だった。
つまり、この場でラビル以外は多忙の身。謝罪の言葉だけ残して、二人はさっさと退室してしまった。
(し、しまった! 流れに乗り遅れた!)
アーシックには悪いが、わたしもお暇しますねと言いかけた瞬間にばちっと視線が重なる。
「……オマエも、帰ってしまうのか?」
さっきまでのオレ様強気なオラオラ系はどこへやら。まるで捨てられる寸前な子犬のような瞳を向けられてしまえば、罪悪感で足が動かない。
「…………兄に手紙だけ送らせてください」
「! 分かった! すぐに手配しよう!」
圧に負けたラビルがなんとか絞り出した言葉に、一気に表情を明るくしたアーシックが指を鳴らして使用人を呼べばあれよあれよという間に、テーブルは掃除されて手紙を書く準備までされてしまう。完全に帰るタイミングを逃してしまったようだ。
どうしたものかと思っていたが、オレ様が直々に領地を案内してやろう! と嬉々とした様子を見てしまってはもう何も言えない。
(ハァ……どうしてこうなったんだか。まぁ、嬉しそうだからいっか)
笑顔で連れて行きたい場所について語るアーシックに内心ではため息を吐きながらも、楽しげな様子に毒気を抜かれて微笑むラビル。
ーーまさか、本来のヒロインとしてのストーリーを自分が歩んでいる事も知らずに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます