15話
俺とあみは双子で産まれてすぐ、実の母親に捨てられた。だから当然、父親の顔どころか生存しているのかすらも知らない。産まれてから親の愛情というものを一切知らずに育ってきた。
双子だからと生活費などが倍に掛かるので、施設をたらい回しにされる日々。理不尽に追い出される度、好きで双子に産まれた訳じゃないと心が荒みそうになるが、あみはいつも笑って俺に言う。
『大丈夫。ともはお姉ちゃんが絶対に守るからね』
震えた手で頭を撫でて、泣き腫らした目で俺に微笑みを向けるあみ。双子なんだから姉も何もないだろうと思いつつも、挫けそうな心はいつもあみに守られていた。年は同じでも確かに精神面ではあみの方が上だったかもしれない。
そして、俺達が中学に進学を控えていたある日。世話になっていた施設が閉鎖される事になって、さすがにまだ二人では暮らしていけないから新しい施設を探そうとしていたら、間木さんと名乗る女性と知り合ったのだ。
最初は胡散臭いなと警戒していたのだが同い年の子が居るから気が合うと思うし、うちにおいで~と朗らかに笑う姿があみと重なって一気に毒気を抜かれた。あみはあみで今まで施設に同年代は居なかったので、友達になれたら嬉しいなぁと浮かれていて。本当はもう少し検討したかったが、どの道、選択肢の無い俺達は間木さんの施設に世話になる事にした。
施設は主に未就学児が多かったが、二人だけ同年代の兄妹が居た。それが紅輔と朱音ちゃんだった。
紅輔は俺やあみと同い年だが、かなり頭が良く大人の間木さんですら首を傾げてしまうような書類仕事も難なくこなしていた。助成金の申請など独学で学んでいたようで、色々な施設をたらい回しにされていたが一番お金には少し余裕がある施設だった。
さすがに建物の修繕まで回せる程の余裕は無かったが、施設には珍しく子供達へのお小遣いまで支給していて、紅輔の作った予算管理表の目安では数年以内には修繕費も捻出が出来るという計算で俺は衝撃を受けた。俺も少しでも役に立たなければと必死に経営について勉強した。
紅輔は頭は良いが寡黙な所があるので役所などではよく意図が伝わらず、俺が間に入って説明する事でより手続きがスムーズになって、紅輔の考えていた経営方法が軌道に乗り出した所。今までは妹である朱音ちゃん以外には真顔しか見せなかった紅輔が初めて、俺に笑みを浮かべて礼を言ってきたのは感動したものである。
こうして紅輔は施設経営が苦手な間木さんの代理として、俺はそんな紅輔の右腕として協力する事になった。
紅輔の妹である朱音ちゃんは俺達の3歳下だったが、かなりしっかりしていた。
俺が同い年だった頃は施設を転々としていたのもあったが、かなり荒れていて学校でクラスメイトに施設育ちだと言われたらすぐに殴り掛かったりと問題を起こしたりして、よくあみに叱られていたものだ。
だけど、朱音ちゃんは俺とは違い、現実を認識してもふて腐れる事はせず、受け入れて更に施設に居る小さな子達の世話を率先してやっていた。
朱音ちゃん自身がまだまだ幼くて本来なら面倒を見てもらう側だろうに、彼女は不平不満を一切漏らさない。
一度だけ聞いた事がある。
『朱音ちゃんは施設に居るのが辛くないの?』
『え?』
突然の俺の質問に朱音ちゃんの大きな瞳が更に大きく、まん丸になる。きっと口には出さないようにしてるだけで、朱音ちゃんも頑張って耐えているはず。元気付けてあげるのも年上の役目、そう考えての質問だったが、返答は予想外で。
『ぜーんぜん。だって、今のわたしの家族はここの皆だから』
『え?』
今度は俺が驚く番だった。
“家族”
それは初めて言われた言葉。
『……その家族の中には、俺も含まれているのかな?』
聞いてすぐに後悔した。それはあまりに図々しいだろう、まだ施設に来て一年も経たない自分は家族に含まれるはずがない。慌ててごまかそうとするより早く、朱音ちゃんが口を開く。
『そんなの当たり前だよ! とも君も、もちろんあみ姉もわたしの大事な家族なんだから!』
その言葉に今までどこか、ぽっかりと空いていたような心が優しく埋め尽くされていく感覚がした。
ずっと、心のどこかで”家族”が欲しかったのだ。あみは双子なのもあり、家族というよりも分身に近い感覚だったし、互いに家族という言葉を使った経験も無い。
気が付くと、一筋の涙が頬を濡らしていた。
『え!? と、とも兄!?』
『ご、ごめんね。なんでもないんだ、すぐ止めるからーー』
これ以上、情けない姿を見せるのは気が引けて顔を背けようとしたが、朱音ちゃんの顔が少し近づいて来る。そして、そのまま頭を撫でられている事に気付いたのは数秒後。
『あ、朱音ちゃん!?』
『大丈夫。大丈夫だよ、とも兄。わたしがとも兄を守るからね』
数センチの身長差があるからか、頑張って背伸びをしながら頭を撫でて、いつかのあみのように優しく言葉を紡がれたあの日。
俺は初めて恋に落ちた。
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