13話


 「そ、そろそろ皆のおやつの準備しなきゃよね!」

 「あ、あぁ。そうだな」


 兄に頭を撫でられてから幸せそうにしていたあみ姉だったけど、途中からは羞恥心が勝ち始めたのか熟れたトマトのように真っ赤な顔でそう告げると、兄は手を退かせる。自分で言ったものの少し寂しそうなあみ姉。


 (あ~! も、もどかし過ぎる……!)


 二人の世界で見つめ合っていたので、わたしは先ほどと同じようにベッドの中へ戻っていたがあまりのもどかしさに内心で悶える。とも兄が居てくれたなら更に後押し出来たけど、どうやら今はここまでのようだ。


 「おやつの準備が出来たら、また戻って来るから紅輔くんもそれまでちゃんと休んでいてね」

 「え? いや、それは」

 「や・す・ん・で・ね?」

 「はい」


 普段はいつもニコニコしていて穏やかなあみ姉だけど、こういう時は強い。有無を言わさない迫力に圧倒された兄はこくこくと何度も頷く。それを見て満足したようにあみ姉は満面の笑みを浮かべている。


 「はい。じゃあ、お布団に入って入ってー」

 「いや、俺は書類の片付けだけでも」

 「入って?」

 「分かった」


 わたしが寝込んでいる間も、施設長の代わりに兄は書類仕事をサポートしていたのだろう。机の上に置かれた書類を手に取ろうとしたが、あみ姉のにこやか迫力(?)にまたしてもあっさり敗北して、素早くわたしの隣にある自分のベッドへと体を滑り込ませるように入る。

 その姿を見てようやく、あみ姉が先ほどとは違ういつもの優しい笑顔を浮かべる。普段優しい人ほど怒らせたらいけない。わたしはそっと心に誓った。


 「さて、それじゃあ二人とも夕飯の準備が出来たらまた呼びに来るから、それまでしっかり眠るんだよ?」

 「はーい! あとコウお兄ちゃんがちゃんと眠るか、しっかり見張っておきまーす」

 「ふふ、それは助かるなぁ。じゃあ、朱音ちゃん。紅輔君をお願いね?」

 「……それは逆だと思うんだが」


 わたしとあみ姉のやりとりに複雑そうな顔と声色で呟く兄に笑みを残して、あみ姉が部屋を出て行った。


 「少し仕事をしたかったんだが……あみは怒らせると面倒だからな」

 「まーた、そういう言い方しちゃって。心配されて嬉しいくせに」


 わたしに図星を突かれると兄は驚いた顔をして、すぐに不機嫌そうな顔になる。


 「……とりあえず仮眠をするぞ。おやすみ、朱音」

 「はーい。おやすみ、コウお兄ちゃん」


 ぶっきらぼうに言い放って反対側を向いて横になっているけど、兄は分かりやすい。布団から少し見えている両耳が真っ赤なのである。

 こんなにも両想いなのが分かりやすいのに、二人はなかなかくっついてくれないのだからもどかしい。


 でも、ふと思う時がある。

 ……兄はわたしを優先しているから、自分の幸せを後回しにしてしまっているのじゃないかと。

 今回のわたしの発熱だって、本当は土曜日だったから兄はあみ姉と買い出しと言う名目のデートの予定だった。

 あみ姉はデートを楽しみにしていたし、兄はこっそりと隠れてあみ姉が好きそうなデートスポットを調べたりしていた。だからこそ、二人が当日楽しめるようにわたしは張り切って用事をこなしまくった。


 その結果、頑張り過ぎて熱を引いてしまった。わたしはいいからデートに行ってと言っても、二人は頑なに看病するの一点張りで最終的にわたしが二人のデートを邪魔してしまうという最悪の結果になってしまったのだ。

 あみ姉もだが、兄もわたしに甘過ぎる。高熱が出たと言ってもわたしももう12歳。熱が出たからといっても、何も出来ない赤子ではない年齢だ。

 優しくしてくれるのは嬉しいが、いつまでもあの二人に甘えてもいられないし、何より大好きな二人だからこそ幸せになって欲しかった。

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