12話


 「は……っくしゅん!」

 「朱音ちゃん、大丈夫? 熱は下がったけどまだ辛そうだね。はい、お水」

 「うぅ~……ありがとう、あみ姉」


 数日間苦しめられた高熱は落ち着いたものの、まだ気怠い体をなんとかベッドから起き上がらせてあみ姉から水のペットボトルを渡されて一気に飲む。程よくひんやりとした水が喉を冷やしてくれて気持ちが良い。


 「いえいえ、これくらいお安い御用だよ。それより、他に何かして欲しい事はないかな?」

 「ううん、もう大丈夫。お風呂入れなかったから背中拭いてもらえただけでもスッキリして助かっちゃった。さすがにコウお兄ちゃんには頼めないからさ」

 「ふふ、そうだね。でも、紅輔君は朱音ちゃんの為なら何でもしてくれそうな印象あるかも。……良いなぁ」


 最後にぽつりと漏れた本音をわたしは聞き逃さなかった。


 「ダイジョブダイジョブ! コウお兄ちゃんはあみ姉の為でも何でもしてくれるって!」

 「え? そ、そうかな?」

 「うん。妹のわたしが保証するよ!」


 グッと親指を立ててみせれば、そっかぁとあみ姉は嬉しそうに破顔している。

 側から見れば明らかに兄とあみ姉は両想いだと言うのに、恋愛に対して鈍感ポンコツな兄のせいであみ姉はまっっったく両想いだと気付いていない。わたしやあみ姉の双子の弟であるとも兄と協力して、二人きりにしてもいつまでも進展が無い。最初のうちはウブで微笑ましいなーうふふ、といった感じだったが今でははよくっつけや!と思ってしまっているのは内緒。


 こんこん、とノックの音と共に噂をすればなんとやらで兄が室内へ入ってきた。


 「朱音、もう体調は大丈夫そうか?」

 「うん。もうバッチリ元気。看病ありがとう、コウお兄ちゃん」

 「大した事じゃないから、気にするな」


 コウお兄ちゃんがベッドに近づいてきたかと思うと、大きな手で優しく頭を撫でられる。わたしが何かを頑張って褒めてくれる時や悲しんでいる時、いつもこうやって労ってくれる。そんなコウお兄ちゃんはわたしの自慢の兄だ。

 ふと視線に気が付くと、あみ姉がわたし達を見ていた。正確にはコウお兄ちゃんに撫でられている頭と触れている手。

 

 (あ! これはチャンスなのでは?)


 ある考えが閃いてわたしはベッドから起き上がって、コウお兄ちゃんの手を掴んでそのままあみ姉の隣に移動する。


 「朱音? 何をしてーー」

 「朱音ちゃん? 急に立ったら危ないーー」


 同時に口を開いた二人だったが、わたしの行動でぴたりと言葉は途切れる。それというのも、わたしは掴んだ兄の手をそのままあみ姉の頭へ移動させたから。


 「あみ姉ね、わたしがお風呂に数日入れてないのが辛いだろうからって体拭くの手伝ってくれたの。ね、偉いでしょ? だからいいこいいこしてあげて!」

 「あ、そ、そうか。……感謝する」

 「い、いえいえ! ありがたき幸せ!」


 お互い変に意識し過ぎて変なやりとりになっているけど、表情を見る限り幸せそうだったのでよしとした。

 しかし、まだまだ二人が恋人になるには時間がかかりそうだなぁと、遠い目になるわたしだった。

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