11話
ーーあの日は雪がちらほらと降る、真冬の寒い日だった。
「ーー…け、ーー……すけ……紅輔!」
ゆさゆさと体が揺さぶれた事で、気が付いたら睡魔に襲われていた体が覚醒しだす。まだ重い瞼をなんとか開けると、目の前には呆れた表情の朋騎が立っていた。
「……朋騎か」
「朋騎か、じゃないだろ。ほら、もう交代の時間だぞ」
壁に掛けられた今にも壊れそうな古い時計が指差していたのは、交代の時間である15時の5分前だった。子供達が昼寝から起きておやつにする時間だ。
紅輔はゆっくりと気怠げに椅子から立ち上がると、暖炉の中に薪を追加する。
紅輔や朋騎達が預けられた施設は施設長が後先考えずに路頭に悩む子供達が居れば引き取ってしまうので、常に金銭不足だった。なのでエアコンなど設置する余裕があるはずもなく、夏はひたすらに水を飲んでごまかし、真冬になると昔からある古い暖炉に薪を入れて寒さをしのいでいた。
ただ、火の扱いは危険なのと薪を運び入れるのは多少力が必要なので、施設長が主に担当していた。しかし、今日は用事で出かけしまっており、施設で一番上の世代である紅輔と朋騎が交代で火の番をしていた。
「……朱音の体調は?」
「あぁ、もうほぼ平熱だよ。あみが体を拭いてあげたいから、男子は出て行けって言われたよ」
やれやれという風に肩を上げれば、紅輔が笑う。この数日、大事な妹が高熱を出して寝ずに看病をしていたから年齢に似合わず、かなりの濃いクマが痛々しい。
「紅輔、今日からはちゃんと寝た方がいい。クマがすごいぞ?」
「あぁ、今日からはそうするよ。……でも、クマはお互い様だろ?」
朋騎の言葉に素直に頷きはするも、まさかの返された言葉にぎくりとする。
そう、朱音の看病で寝不足な紅輔と、朱音の体調が心配な朋騎も眠れない日々を過ごしていた。
更に普段は施設の子供達に勉強を教えたり、施設長の事務仕事のサポートをしていた紅輔の仕事を全て朋騎が代わりに行っていたので、朋騎も紅輔とほぼ変わらない濃さのクマが存在していたのだ。
しかし、今日やっと朱音の熱が落ち着いたのでこれでちゃんと眠れるな、と二人で笑い合った。
少しだけ会話をしてから、紅輔は朱音ちゃんとあみが待つ部屋へと向かった。
(でも、本当に朱音ちゃんの風邪が治って良かった。辛そうだったもんな……)
紅輔の妹である朱音ちゃんは兄とは違って、表情が豊かな方でコロコロと表情が変わる子だった。紅輔より3つ年下だったが、俺やあみより先に施設に居たせいか子供達の世話をするのが上手で年齢を聞いて驚いた頃が懐かしい。
何でもかんでも一生懸命に取り組む姿が朋騎には輝いて見えて、気が付いたら好きになっていた、と自覚したのもつい最近の事。
朝、いつものように皆で朝食の準備の為に台所に集まった時、朱音ちゃんの顔が赤い事に気付いて近寄ったら、そのまま倒れるように寄り掛かられた時。
倒れてきて心配という気持ちより先に、柔らかな体に触れて胸が高鳴ってしまったのだ。恋心を自覚してすぐに朱音ちゃんが高熱で数日も苦しんでいるとなれば、自分だけのうのうと眠れるはずが無かった。
火の当番を紅輔と交代制でやりながら、朱音ちゃんの看病も交互に行おうと申し出たのは、俺自身が朱音ちゃんに会いたかったからだ。
そんな俺の気持ちを察しているのか、紅輔は絶対に二人きりにはせず、紅輔と看病を交代する時は俺にあみを同行させた。
親友が恋路の邪魔をしてきたので、朱音ちゃんが全快した際にはあみとの時間を邪魔してやるか、など頭の中で作戦を練っていると暖かな空間。他の子供達はまだ夢の中だからか静かな時間。ここ数日の寝不足と眠気を誘うには最高の条件だった。
朋騎の瞼は少しずつ、降りていく。
暖炉はぱち、ぱちと小さく爆ぜる音を鳴らしていた。
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