第30話 多いと大変、無ければ寂しい

 午前9時、私は目を覚ました。身体がこれ以上の睡眠を拒んでいる。人はやっぱり朝目覚めて日の高い時間に活動し、それが沈めば休むようにできているのだろう。


 狂いに狂っていた生活リズムが、ミズキさんとの数回の約束でリセットされていた。

 10時過ぎまで部屋でごろごろとなにをするでもなく、スマホにいくつか入れているゲームアプリを触って過ごした。



 スマホを見ると自然と目がいくSHINEの通知。今はなんのメッセージも入っていなかった。

 高校入学時には一応、クラスのチャットグループに入っていた。自分から発信をしたことなんて一度もない。マメな子が翌日の授業の提出物について教えてくれたり、たまに一部の人だけの他愛ない会話が続いていたりと――、そんな当たり障りのないものだった。


 私が学校を休学した直後は、まともに話したことのない子から励ましのメッセージみたいなものが送られてきたりしていた。


 ただ、それも精々2,3日くらいのこと。向こうは「クラスメイト」への最低限の配慮のつもりだったのか? あるいはある種のイベントくらいに思い、その熱が冷めてしまったのか――、こちらからの反応も面白みに欠けたのかもしれない。すぐにメッセージは無くなった。


 私がいなくてもクラスのチャットグループは変わりなくやりとりが交わされていた。それを見て当時の私は思った、「ここに私はいてもいなくても一緒」なんだと。


 休学してしばらくは、一応学校の動きを把握できるのもあってグループチャットを眺めていた。でも、しばらくすると自分に関係ない通知の多さと、学校、クラス、同級生の時が進んでいることへの実感が怖くなってきた。対照的に私の時は止まっていたから。


 そして、私はひっそりとクラスのチャットグループから抜けた。そうすると、家族以外に私へメッセージへくれる人間なんていなくなる。今の世の中で珍しいくらいに「静かなスマホ」になっていたはずだ。そのおかげなのか、バッテリーの消耗もホントに少なかった。



 ミズキさんと出会って、そんな私のスマホに家族以外のメッセージが届くようになった。私同様、休むことに慣れたスマホにとってはさぞかし驚いたことだろう。


 あの雨の日までは、スマホの通知が嬉しくて仕方がなかった。メッセージをくれる人が限られているのだから、通知があれば高確率でミズキさんからなのだ。


 ところが今はその通知がとても不安定な気持ちにさせる。ミズキさんが気にかけてくれる喜びと、それを拒絶しようとする卑屈な私の気持ちが綯交ないまぜになっている。


 そのくせ、なんのメッセージも来ていないと気落ちする自分がいるんだ。一体どうしたらいいのか? どうするのが希望なのだ、私よ?


 当の私はまったく答えを出せないまま、ミズキさんとの過去のやりとりをぼんやりと眺めていた。

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