第29話 疎遠は渦巻き離れていく

 大声を出して、涙を流した私。


 さすがにここに居ずらいと思ったのか、それとも熱さましの薬が効いてくる時間と思ったのか、ミズキさんに促されて私はファミレスを出た。


 そこからは記憶がはっきりとしない。私を気遣ってか、気まずくなってか、ほぼ無言で帰りの電車に乗った。

 ミズキさんと私の最寄り駅は同じ。家の近所にあるコンビニで働いているくらいだ。きっと住んでいるところもそう遠くないのだろう。



 空は相変わらず曇っていたけど、いつの間にか雨だけは止んでいた。


 ミズキさんは駅から家までの道のりを付き合ってくれた。さすがに家の前までは気が引けたのか、あるいは私が延々と断り続けたからか、途中で彼女とは別れてひとりになった。


 家に帰って、もはや体の一部とまで感じるほどに馴染んだジャージに着替え、ベッドに入って布団に包まった。身体が疲れていたのか、薬の効果なのか――、すぐに意識がまどろんでいった。


 眠りにおちる寸でのところで一瞬、今日ミズキさんと交わした言葉が過った。



『――うちにとってコウちゃんは特別やけん』



 「特別」……、特別ってなんだ? そんな疑問を思い浮かべながら私の意識はベッドの中に溶けていった。




 あれからしっかり熱が下がるまでに2日ほどかかった。お母さんからは久々にこっ酷く叱られた。全面的に私が悪いのでなにも言い返せなかった。


 その間、ミズキさんからは体調を気遣うメッセージが何度か届いていた。それに対して私は、先日のお詫びを入れつつ、熱は順調に下がっている、と妙に事務的な返信を返した。


 九分九厘――、どころか全部私が悪いのだけど、あれからますますミズキさんとの距離の取り方がわからなくなってしまった。


 彼女は私を「友達」と言ってくれた。では、果たして「友達」の距離感ってどんなだろう?

 中学校以降でまともに友達と呼べる人なんていなかった。ましてや5つ以上も年上の友達なんていたことがない。

 私は普通の高校生にすらなりきれていない「学生」で、ミズキさんは立派に成人した「大人」だ。


 考えれば考えるほど、よくわからなくなった私は、ミズキさんからのメッセージに返信こそするものの、次に続かない言葉を送っていた。


 「ありがとうございました」、「おやすみなさい」、「また連絡します」……、私の返信で会話が途切れる、途切れさせる言葉。


 ホントはもっとミズキさんと話したいのにどうしてこうなってしまうんだろう?


 きっと卑屈で臆病な私が、彼女との関係の今以上の発展を避けているんだ。今なら無かったことにしても傷口は浅いから……。

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