第28話 簡単に楽になんてしてくれない?

 すごいよ? すごい……? なにが……? 


「――私のなにがすごいの?」


 ミズキさんは言葉に自問自答していた――、つもりが、どうやら声がそのまま漏れていたようだ。



「うちを助けてくれたもん。誰んでもできることじゃない」



 「助けた」か……。たしかに結果的にはそうなったのかもしれない。けど、私は一度、から背を向けた。戻って来たあと、スマホの動画を大音量で流して――、そのあと運よくムハンマドくんがやって来て……。


 自分で声を出す勇気もなかった。だから名前も知らなかった(迷惑客が教えてくれた)お笑い芸人の力を借りて、たまたま――、たまたま流れが上手くいっただけ。


 ミズキさんに感謝してもらえるほど、立派なことはしていない。それは全然「すごく」ない!


 私は陰気で消極的なうえに卑屈な人間だ。せっかくのミズキさんの言葉を自ら否定して、自分を貶めていた。



「うちは学校でのコウちゃんを知らんけん、わからんことも多かばってん――」


 ミズキさんはこう前置きしてから話し始めた。――っていうか、「ばってん」とホントに言うんだ。初めて聞いたかも……?



「目の前の困ってる他人ひとを助けてあげられる、怒鳴ってる大人の男の人に立ち向かえる人って――、どれくらいおるっちゃろね?」



 最初はゆっくりとなるべく方言にならないよう気を付けながら、最後に力尽きたような台詞でミズキさんは言った。


「違う、私は一度逃げてる」

「けど――、戻って来たっちゃろ?」


「立ち向かってもない……、割って入る勇気なんてなかったから、向こうが勝手に注意を逸らさないか試しただけ……」

「できんと思ったことを、工夫して違う方法で成し遂げたっちゃろ?」


 自分の行動を後ろ向きに否定する私に対して、ミズキさんはすべて前向きに全力で肯定してくる。

 まだ数回話しただけなのに、どうしてこんなに私を気遣ってくれるのか? それとも私が年下の学生だから、それらしい言葉で励まそうとしているだけ?



「――ミズキさんは、おかしいです。今日だって熱があったら事前に連絡したら済む話なのに、知らせないどころかメッセージの返信すらしなかった私ですよ? 褒められるところなんてひとつもない!」


 いつの間にか声が大きくなっていた。次第に涙も出てきた。端っこの席とはいえ、こんなところで変な注目を集めてしまっているかもしれない。そうなると、なおさらミズキさんに迷惑だ。


 なのにどうして――、ミズキさんこのひとは私を突き放してくれないんだろう? その方がずっと楽なはずなのに。



「コウちゃんがなんて言っても、うちは否定せんよ? じゃって、うちにとってコウちゃんはやけん」

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