第31話 代打の結果がよければスタメンだ

 深夜、目が冴えていた。とても悪い習慣だ。週4で午前2時過ぎに出掛けていたせいか、身体がそれを覚えている。

 せっかくミズキさんのおかげでこの悪習を払拭できるかもしれなかったのに……。


『そういえば――、単4電池買ってなかったな』


 先日、エアコンの電池が切れて買いに出たのに結局買わずに帰って来た。思い出した時に買っておかないとずっと忘れっぱなしになりそうだ。


 私はスマホを見て曜日を確認した。


 今日は、水曜日。少し前はミズキさんのいる日を選んで出掛けていたのに、今はその逆だ。それもミズキさんとの距離は近くなっているはずなのに、私が勝手に避けている。



 外はここ数日で一気に冬へと突き進んでいた。部屋の外へ出ると気温の差を肌で感じ、家の外へ出るとそれは身震いを伴うほどになっていた。


 厚めのコートを着て、袖口を掴んで手先をそこに包んだ。時々吹く冷たい風は、顔とか耳の先とか露出しているところを攻め立ててくる。


 年中無休で働き者の信号機に敬意を払って、今日は青色に変わるのを待った。早くお店に辿り着きたい気持ちが薄かったからなのかもしれないけど……。



 コンビニの前まで来ると、勝手に歩幅が小さくなっていく。ここまで来たというのに、「引き返してもいいのでは?」と問い掛けてくる内なる自分がいる。


 その思考がお店の入り口までのわずかな距離の足枷になっているのだ。


『うるさい、内なる私……。なんのために<今日>を選んだと思ってる? 今日は水曜日、ミズキさんはお休みの日』



 自動ドアが開き、お客の来店を知らせるチャイムの音が鳴った。



「イラジャイマセー、コンバンワ!」



 出迎えてくれたのは、ある意味一番安心できる声だった。安定の代打――、というより安打製造機か、ムハンマドくん。


 私はレジに立っているムハンマドくんの姿を横目に電池の売り場へ行き、単4のアルカリ乾電池4本セットを手に取った。そして、なんとなく気の向くままにお菓子のコーナーと雑誌のコーナーを見て回った後に、そのレジの前に立つ。


「Oh、オ姉サン、ツイニ電池デ動クヨウニナッタ? 単4デ足リル?」


 この男は――、一体どこからそんな発想が出てくるのか?


「私の動力のわけないでしょ? ほら、ポイント! さっさと会計して」


 他のお客がいないコンビニ、私とムハンマドくんは遠慮なく声を出して話していた。

 すると、レジの奥から見慣れない男の店員さんが顔を出した。20代後半――、いや、30歳くらいだろうか――、不思議とどこかで見たことあるような気がする。



 そして私は思い出した。前にコンビニここの外でミズキさんと仲良く話していた人――、ミズキさんの彼氏さん(?)と思われる人だ。


「Oh、店長テンチョー? ワタシ、仕事サボッテナイヨ? オ得意サンノゴ来店、歓迎シテタネ」


 「お得意さん」、よくそんな日本語知ってたな……。――って、うん? 今、って言った……?

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