第17話 疲れても眠くもないから、まだ召されるな!

 天使が降臨した。


 私、上の世界へ召されてしまうのか? もし、彼女の誘いでこの世界にお別れしなさいと言われたら、迷わず「サヨナラ」してしまうかもしれない。


 それくらい、姿を見せたミズキさんは神々しく見えた。お天気がよくて、後光が差していたのも理由かもしれない。


 薄いグレーのポンチョと白のロングスカートに身を包んで彼女は現れた。明るい時間帯で服の色も明るいせいか、コンビニで見たときや先日公園で話した時よりもずっと綺麗に――、いや、可愛く見えた。


 ミズキさんはやはりこのあたりに住んでいるのか、駅の改札とは逆方向から現れた。私は心の中で、彼女が訪れたことに安堵して、さらに歓喜して……、少し遅れて信じきれなかった自分を嫌悪した。



「ごめんごめんごめん! ギリギリ間に合っとう?」

「あっ――、えと、まだ約束の1分前です。えっと……」


 元々、人と話すのが得意じゃない私。さらにここ数か月、家族以外だとムハンマドくん以外まともに話していない私。さらにさらに目の前にいるのは憧れの「ミズキさん」。


 最初から会話スキルなしの私に、難題だけが降りかかってきている気がする。一応、ここへ向かう道中、頭の中で会話のシミュレーションをしてきた。

 とりあえず、挨拶からはじめて、先日のココアのお礼を改めて言って――、といろいろ考えていたが、直接ミズキさんを見るとそのすべてがキレイさっぱり吹き飛んでいった。



「うち、実はカフェの限定クーポン持っとってね、けっこう安くなるっちゃん」



 ミズキさんはそう言って勝手に歩き始めた。私は数歩遅れてその後ろを追う。


 私の感覚からすると、ミズキさんはクール系の美人さんだ。けど、今日の服装はどちらかというと可愛い雰囲気で、なにより訛りの激しい話し方は、クールな印象とくい違う。


 私の思い描くイメージ像と、実際の彼女の情報の齟齬が激しく脳が破壊されていく、けど、それはとてもいい意味で……。ミズキさんの魅力にどんどんハマっていく自分がわかった。


 彼女の後ろをついていくと、爽やかな香りが鼻孔をくすぐる。なんとなくだけど、香水の香りとは違う気がした。きっとシャンプーかトリートメントの香り。



「いろいろ話したいことはあっばってん、それはお店についてからやけ」



 私の頭に時々「?」が灯る。ミズキさんの訛りはけっこう強烈で、おおよそこんな意味だろう、と推測しながら返事をするが、確信をもてないときもある。


「ああ、ごめんごめん。コウちゃんがいっぱい話してくれたら、きっと標準語になるけん。人と話してると自然に合わせられるんだけど、そうでないと素がでちゃっとよ?」


 ミズキさんは心なしかゆっくりと言葉を選んでそう話してくれた。それでも語尾には訛りが出ているけど……。

 私から話したら――、か。それは荷が重いので、ミズキさんには気軽に地元の言葉のまま話してもらうことになりそうだ。

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